前回は何処が「秋の噺」なのかな?という疑問と共に「五人廻し」を取り上げましたが、今回は間違いなく「秋の噺」でしょうと思われる下記の話を取り上げたいと思います。と言っても演じ方次第でしょうけど。
碁どろ
「当分碁が打てないことになりましてね。」 「へえ、何か?」 「今朝、家内からから苦情が出ましてね。」 「ああそうですか。でも別に碁を打つために夜更かしをして商売をおろそかにするわけじゃなし、昼間一日稼いで夜の楽しみに打つんで。時間がくればちゃんと切り上げて打ちかけでもやめてではまた明日改めてということにしてるんですから、おかしいですなあ、おかみさんの方から苦情があるというのはねえ。」 「それがね、家内が言うに日の用心』に悪いから、どうか碁を打つのはやめてくれるなと言うんで。」「火の用心が?」 「今朝、家内が奥の八畳の敷物を上げてこれを見て欲しいと言われて見た時はぞっとしましてね。」 「どうして?」 「碁盤の周りが焼け焦げだらけなんですよ。あなたも私も噛むほど煙草が好きで畳に焼け焦げをたくさん作って、火の用心にならない。碁をするならする、煙草を吸うなら吸うと分けてやって欲しい。夢中になると、火種が煙草盆の中に入らず、そこらに飛んで火事になったら・・・大変、と言われてしまいましてね。」

「お互いに、それは知らなかった。苦情が出るのは当たり前です。それで、碁が打てなくなったら・・・、我が家でも良いんですが、孫がウルサく、落ち着いて出来ない」 「何か妙案は無いですかね。」 「庭の池の中でやるのはどいうでしょう?水の中ですから吸い殻が落ちても。」 「冷たいですよ。」 「冷たいぐらいは我慢しなくては。」 「碁盤は?」 「首から紐を下げて両方で吊っておけばよいでしょう?」

「碁石は?」

「腰へ魚籠を下げてその中に入れる。」 「まるで釣り支度だね。他にいい考えはありませんか?」 「畳にトタンを張るというのは?」 「今夜に間に合わない。」 「では、煙草を止めたらどうでしょう?」 「仕事で忙しいときは碁は止められるが、煙草は止められない」 「煙草を我慢して一局打って、一局おわったら隣の部屋で煙草を吸う。碁の部屋と、煙草を吸う部屋を分ければ良い。煙草は煙草、碁は碁ということで。」 「あなたは上手いことを考えるな~。煙草は煙草、碁は碁ですか。」 奥様の許可も下りて、早速碁を打ち始める。

「いやはや、考えましたね。煙草は煙草、碁は碁とはね。(パチリ)」 「碁も煙草も好きなのですがねえ。去年などは商売が忙しくて、碁の方は十日ほど休んだことがありましたが、煙草の方はどうね。煙草は煙草、碁は碁とはどんなもんですかな(パチリ)。」 煙草は煙草、碁は碁と打ち合っているうちに、局面が詰まってきた。 「チョッと考えさせて下さいよ。(煙管を取り出し煙草を詰めて雁首で周囲を探って)オーイ、火種が来ていないよ。煙草の火種だよ!」 「奥様、旦那様は夢中になって煙草の約束忘れてしまったようですよ。」 「今日は大丈夫と、良い敷物出したのに。」

「煙草盆を持っていきますか。」 「それはダメですよ。火種が見えないと。そうだ、縁側に干してある真っ赤なカラスウリを持って来て、灰の中に埋めれば、碁に夢中だから分かりませんよ。」

「ああ、煙草盆持ってきたか。そこへ置いて‥‥‥襖閉めて…‥‥ぴしゃっと閉めるんじゃない‥‥‥(煙管の雁首を煙草盆に)可笑しいな。煙草が湿ったかな。火が着かないよ。」

碁に夢中ですから、そうとは気づかずに煙管でカラスウリをなぜ回しています。 奥様と女中さんはこれなら安心と、碁をしている部屋から離れた湯殿で湯を使っています。
悪い事に、その時泥棒が入ってしまった。 荷物を背負った泥棒が、パチリ、パチリと碁を打つ音を聞いた。 夜には響くものです。 泥棒は二人に負けず碁が大好きと来ています。

「アッ、やってるな。あの音を聞くと胸がスーッとするな。良い碁盤と石を使っているんだろうな。何処でやっているんだろうな…‥ここでやってるよ。碁盤も石も良いな。ひとつ、拝見するかな‥‥‥(部屋に入って碁盤を見て)…‥‥ああその石はそりゃあこわい石ですよ…‥‥‥ああ、そりゃあ気をつけなきゃ。」 碁の戦況を眺め横から口出し始めた。

「貴方、何か言っちゃ~いけない。黙って見ていて欲しいね。口出しはいけないよ。岡目八目、助言は無用ですから。(パチリ)」 「そうそう、私も岡目八目、助言は無用です。(パチリ)」 「そこに石を置いてはいけないな~。」 「困るな~。口を出しちゃいけないよ。ん?、あまり見掛けない人だな~。大きな包みを抱えて、いったい、お前さんは誰だい?(パチリ)」 「じゃ~私も、お前さんは誰だい?と打ちましょう。(パチリ)」 「泥棒です。」 「泥棒ッ?、泥棒とは考えものだな。泥棒さんといきましょう。(パチリ)」 「じゃ~私も泥棒さんと打とう。(パチリ)」 「泥棒さん、良くおいでだね。(パチリ)」
原型は、元禄4年(1691年)に刊行された露の五郎兵衛による咄本『露がはなし』の「この碁は手みせ禁」とされています。上方では「碁打ち盗人」として演じられてましたが明治中期(または大正2年頃)、三代目・柳家小さん師が大阪の四代目・桂文吾師から教わって東京に持ち帰り、「碁どろ」として磨き上げたそうです。
五代目・古今亭志ん生師が「なめくじ艦隊」の中で語っていたのですが四代目・文吾師は「碁打ち盗人」を演じる時は二時間ぐらい黙々と碁を打つ仕草をしていたそうですね。誇張もあるかも知れませんが、寄席の数が多く各々の落語家の持ち時間がたっぷりあった時代だからこそ出来たことでしょう。
最初に麻生芳伸先生編集の「落語百選」(三省堂)で読んだ後(五代目・柳家小さん師演)、六代目・春風亭柳橋先生演をカセットで聴き、ナマでは十代目・金原亭馬生師演、二代目・三遊亭金翁師演をききました。
烏瓜を炭火に似せる件ですが演者によっては紅生姜を用いる演り方がありますが、私としては烏瓜の方が季節感があってよいと思いますね。

烏瓜の実は干して咳止めや痰を切る生薬として用いられたようですが、観賞用として軒先に吊っている家もあったようです。
「秋の夜長、京橋当たりの骨董商の主人の部屋、池のある庭の軒先に烏瓜の蔓が絡まっていて、

湯殿ではお内儀さんと女中が物静かの入浴している。しーんとしたしじまにパチリ、パチリと盤石の音・・・・・。」 先述の「落語百選」の麻生先生の解説の一文を借りてきましたが

落語も「季節感」を大事にして欲しいと年齢を重ねる毎に思います。
10月の半ばこれから寒い時期を迎えます。
お身体に気を付けてお過ごしください。

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