今年もあとわずかで暦上の立冬のなるのですね。
ゆく秋を偲んで、秋の噺をもう一つ。
真田小僧
父親「やい、なぜそういたずらをするんだ。」

金坊「いたずらなんかしてないよ。」 父「火鉢をかき回しているじゃなねえか。」 金「火を熾してんだよ。」

父「火なんか熾さなくていい。」 金「だってお父っつあん、火がなきゃ煙草吸うのに困るだろう。」 父「燐寸(マッチ)があるからいいよ。」 金「でもお茶飲むのにお湯がぬるいよ。」 父「ぬるくてもいいよ。」 金「お茶入れようか?」 父「いいよ。金坊、お父っつぁん、たまの休みで のんびりしてえんだ。表へ行って遊んで来い。」 金「じゃ、行くよ。」 父「行きなよ。」
金「へへ、ねえお父っつあん。」 父「なんだ。」 金「お父っつあん、いいお父っつあんだねえ。」 父「何を言ってやがる。」 金「みんなにあたいそう言ってんだぜ。家のお父っつあいいおとっつあちちっつあんはいないって、本当に偉いお父っつあんだ、ああいうお父っつあんは出来合いじゃねえって。」 父「親を誂えたと思ってやがる。早く表行って遊んで来い。」 金「遊びに行くからさぁ お父っつぁん、(もの欲しげに てのひらを差し出して)おくれよ。」 父「あん?」 金「おくれよ。」 父「何を。」 金「何をって お父っつぁん、子どもが親に『くれ』って言ってんだよ?まさか首じゃないよ?」 父親「当たり前だよ。首なんざ 取られてたまるか。何なんだよ。」 金「もォ~お父っつぁ~ん。わかってるクセに、ヤだなぁ~。」 父「なんだよ、じれってぇなあ。ハッキリ言えよ、何なんだよ?」 金「だからぁ……、お・こ・づ・か・い。」 父「ほ~らきた。どうせそんなこったろうと思ったよ。ダメダメ。小遣いなら 今朝やったろ?」 金「もう使っちゃったんだよぉ。」 父「使っちまったんだろ?じゃあもうダメだよ。小遣いは 毎日毎日きちんとやってんだ。今日のぶん 使っちまったんなら それで終わりだよ。」 金「じゃ明日の分おくれよ。」 父「遣いの前借りなんぞ せがんできやがる。明日のぶん 今日 もらって、じゃあ明日はどうすんだよ?困るだろうが。」 金「明日になったら あさっての分 もらって、あさってになったら しあさっての分 もらって、しあさってになったら その次の分 もらって――そうやって 順に順に 前倒しで もらってくの。そうやってるうちにお父っつあん。ボーッとしてわけわからなくなる寸法。」 父「寸法じゃねえよ。親を馬鹿にしやがって……。いくら言ってもダメなものはダメなんだよ!」 金「あ、そう。どうしても くれないの?フン!じゃいいよ。いいよーだ!もうお父っつぁんになんか頼まないよ!おっかさんに もらうから いいよーだ!」 父「おっかさんにィ?甘いんだよオマエは。いいか、おっかさんの持ってる金はな、お父っつぁんが働いて稼いで、預かってろって言って 渡してある金なんだよ。普段から おっかさんには 『金坊にやっちゃいけねえぞ』って言ってあるんだ。おっかさんも くれやしねえよ。残念だったな。 金坊:へっへっへ。甘いのは お父っつぁんのほうだよ。あのね、あたいがおっかさんに『おこづかい おくれよぉ。』って言うでしょ?そしたら おっかさんが『ダメよ。お父っつぁんから止められているてるから、あげませんよ』って言うの。そこであたいが『あっそ。おこづかい くれないの。それじゃあ、こないだ お父っつぁんの留守に 他所のおじさんが訪ねて来たこと、しゃべっちゃおうかなぁ。』って言うと、おっかさん 急に うろたえ出して、『ちょいとお待ち!ちょいとお待ちよ!今あげるから!それだけは しゃべっちゃ いけないよ!』なーんて言って、必ず おこづかい くれるんだよね。」 父「おいちょっと待て。」 金「親をゆするなんてイヤだけど……、背に腹は代えられないもんねぇ……。」 父「ちょっと待てよ。」 金「じゃあたい表へ遊びに ‥‥‥。」 父「ちょっと待てってんだよ。」 金「なに?」 父「表は危ない。ウチにいなさい。」 金「えー、だってさっき お父っつぁん、表へ遊びに行けって…‥。」 父「いいから。ちょっと、こっちに来い。まあ、ここに座れ。」 金「はい」 父「 お父っつぁんの留守に、誰か訪ねて来たって?」 金「いやその……、なんでもない、なんでもないの。気にしないで。(ボソっと。でも父親に聞こえるように)マズいこと言っちゃったなぁ……。」 父「何だよ。誰か訪ねて来たのか?お父っつぁんに ご用のある人だと いけないから聞いてんだ。」 金「いや、お父っつぁんに用のある人じゃないんだ。弱ったなぁ。マズいこと言っちゃったなあ。やっぱあたい表へ遊びに ‥‥‥。」 父「待て待て待て待て。誰か訪ねて来たんだろ?な?いいから言ってみろ。」 金「じゃ言うけどさ。訪ねて来たことは、訪ねて来た。」 父「ふうん。誰が?」 金「誰がって……。ねえ お父っつぁん、この話、聞きたい?」 父「あん?そりゃまぁ、聞きたいよ。」 金「聞きたいの?」 父「だから話をしろよ。」 金「お父っつあん、寄席行ったことある?」 父「噺や講談好きだからよく行くよ。」 金「寄席ってのは噺を聞いてから木戸銭払うの?木戸銭払ってから聞くもの?」 父「変な催促するなよ。お前が話をしてしまえばやるよ。」金「いやだよ。聞いてから木戸銭を払うなんて寄席はありゃしないよ。なにもあたいが話をしたいからお銭おくれってんじゃないよ。お父っつあんがお話ききたいてえから、じゃ、先におくれってんだよ。」 父「わかったよ!小遣いやりゃあいいんだろ!今やるから ちょっと待て。ったく……。(小銭を渡して)ほら、これ やるから、話してみろ。」 金「なにこれ。」 父「何って、小遣いだよ。」 金「これ、1銭じゃん。たった1銭!?いや~、この話、1銭じゃダメだよ。」 父「なんだよ。子供なんざ、1銭持ってりゃ十分だろうが。」 金「ダメダメダメダメ。1銭っぽっちじゃあ、とてもじゃないけど聞かせらんないよォ。この話は、値打ちのある話なんだ。5銭おくれよ。」 父「5銭!?冗談じゃねえよ!そんなに やれるわけねえだろ!」 金「あ、そう。じゃいいよ。この話はおしまい。」 父「な……!わ、わかったよ。5銭やるよ。」 金「くれるの?」 父「やるよ。だから、まず話をしろ。そしたら5銭くれてやる。な?まず話を聞かせろ。」 金「いや~ダメダメ それはダメ。その手は桑名の焼きハマグリだよ。」 父「どこで覚えてくるんだ そんな言葉。なにがダメなんだよ。」 金「いや、だってさ、あたいが話をしてさ、で『おこづかいおくれ』って言って、そこでお父っつぁんに ダメだって言われちゃったら、『じゃあ今の話 返して』ってワケにいかないでしょ?ね?木戸銭はは先払い制となっておりますので、お先に5銭のお支払いをお願いいたします お客様~。」 父「誰がお客様だよ。わかったよ……。ほら、5銭やるから、話してみろ。」 金「わぁ~!ありがと お父っつぁん!あのね、こないだお父っつぁん、お仕事で横浜へ出かけた日、あったでしょ?」

父「横浜?ああ、あったあった。」 金「あの日ね、お父っつぁんが出かけて すぐにね、どっかのおじさんが ウチに来たんだよ。でね、あたいが玄関出てみたら、そのおじさん、『お母さんはいらっしゃいますか?』って言うの。で、おっかさんに そのこと伝えたら、おっかさん玄関に出てって、そのおじさんの顔見るなり、うれしそォ~に
『あら いらっしゃい、よく来てくれたわね。』なんて言うんだよ!」 父「なにィ……!?その男、どんな野郎だよ?」 金「どんな野郎って、これがまた オシャレ気取りな野郎でさぁ。真っ白な上着なんか羽織ってんの。キザったらしいでしょ?それだけじゃないよ?カッコつけて 色付きの眼鏡なんか かけてさ、おまけにステッキまで持ってんの。気取ってるでしょ?」

父「ああ、いけすかねえ野郎だなぁ。」 金「でしょ~?でもおっかさん、そいつ見て喜んじゃってさ、『いいところに来てくれたわ。ちょうどウチのカボチャ野郎が出かけたとこなのよ。』だって。」 父「何を!?」 金「おとっつあん、カボチャじゃないよね。」 父「あたりめえだ。」 金「どっちかってえとジャガイモだ。」 父「何言ってやんでえ!!」 金「で、おっかさんたらね、そのおじさんの手をギュ~って握って、『さ、こっち上がっとくれよ』なんて言って、そのおじさんをウチに ひっぱり上げちゃったんだよ。」 父「おっかあが……!?で……、どうなったんだ?」 金「それで……。ここから先、聞きたい?」 父「そりゃ聞きてえよ。」 金「じゃ、5銭ちょうだい。」 父「いや さっきやったじゃねえかよ!」 金「さっきのはここまでの分なんだよ。ここからは別料金となっておりますので。」 父「何が別料金だよ。そんなこと言わねえでスッと話せよ。」 金「そういうわけには まいりません。お話の続きをご希望でしたら、5銭のお支払いをお願いいたします お客様~。」 父「だから誰がお客様だよ。冗談じゃねえよ。追加で5銭なんざ払えるか!」 金「あ、そう……。じゃあ、ここでやめとこう。うん、ここでやめといたほうが、お父っつぁんのためだと思う……。この先を聞いちゃったら…………もう……!」 父「ああもう!わかったよ!やりゃいいんだろ!ほら、5銭!」 金「わぁ、毎度ありがとうございまぁす。」 父「早く続き 話せよ!」 金「で、おっかさんが そのおじさんをウチに上げて、そしたらおっかさん、あたいに、『おっかさんね、これから この人と用事があって かまってあげられないから、オマエは表へ行って遊んどいで』って言うんだよ。 あたいが『やだ』って言ったら、『そんなこと言わないで遊びに行っとくれ。ほら、おこづかいやるから』って言って、3銭もくれたんだよ。だからあたいうれしくって、表へ遊びに行っちゃった。」 父「馬鹿っ!何やってんだよオマエ!何まんまと遊びに行っちゃってんだよ!そういう時は、意地でも おっかさんのそばに くっついてなきゃダメだろ!ていうか俺は何のために追加で5銭払ったんだよ!5銭返せよ!」 金「まぁまぁ落ち着いてよお父っつぁん。大丈夫だよ。あたいはお父っつぁんの味方だよ?いったん表へ行ったんだけどね、やっぱり気になってしょうがないから、こっそりウチに戻って来たんだよ。」 父「エライ!それでこそ お父っつぁんの子だ!」 金「そしたらね、出かける時は開いてた障子が、戻って来たら ピターッと閉まってるんだよ。」 父「障子が!?」 金「うん。あたいね、その閉めきられた障子の向こうで一体何が行われてるのか 気になって、足音たたないようにソーっと近づいていって、その障子をスーっと…………お父っつぁん、これ開けたい?」 父「開けてえよ。」 金「5銭になりまぁす。」 父「また金取るのかよ。スーッと開けろよ!!」 金「申し訳ございませんお客様、5銭お支払いいただかないと、この障子は開きませんので。」 父「オマエはどこの店員なんだよ。いい加減にしろよ。たかが障子ひとつ開けるのに5銭も払ってられるか!」 金「あ、そう……。じゃ、この障子は、永遠に閉じたままにしておこう……。うん、そのほうがお父っつぁんのためだと思う……。この封印は、解くべきじゃないんだ……。この障子の向こうの光景を見てしまったら…………お父っつぁんは…………もう……!」 父「わかったよ!払うよ!払うから封印を解いてくれよ!ほら5銭!」 金「わぁ、毎度ありがとうございまぁす!」 父「うるせえよ!いいから早く開けろよ!」 金「で、あたいその障子をスーっと開けて、中を覗いてみたの。そしたら、布団が敷いてあるんだよ。 父「布団?座布団か?」

金「(首を横に振って)ううん。寝具。夜具。寝る、おふとん。」 父「昼間っから布団 敷いて……!?それで!?」 金「でね、何するんだろうって見てたらね、おっかさんが、『それじゃあ……』とか言って、自分から、誘い込むように、お布団の上に、横たわったんだよ…!」 父「自分から!?誘いこむように!?そ、それから!?」 金「そしたら そのおじさんがね、上から、こう、おっかさんに、おおいかぶさるような格好になったんだよ…!」 父「おおいかぶっ……!? そ……、それから!?」 金「それで…………。ここで5銭。」 父「おまっ……!いいとこで……!ほら!」 金「ありがと。それでね……、そのおじさん、こう………………、ああ、やだなぁ、こんなこと言わなきゃならないなんて……!」 父「なんだよ、そいつ何しやがったんだよ!」 金「やだなぁ…………、でも……、うん、話すよ……。そのおじさん、おっかさんの体を、そこらじゅう……、こう……、触るんだよ……!あっちを撫でさすって、こっちを揉んで……!」 父「なんだとォ……!?」 金「そしたらおっかさん、『ああ気持ちいい。』とか『ああもっと。』とか『おまえさん、とっても上手だよ』とか。『右だけじゃなくて、左のほうも揉んどくれよ』なんて言うんだよ。」 父「あんにゃろぉ……!」 金「そいでね、そのおじさんの顔よく見たらさ、あたいの知ってる人だったんだよ!」 父「オマエの知ってる奴!?誰だ!」 金「誰って……、お父っつぁんも知ってるよ。」 父「俺も知ってる……?誰だ!え?言ってみろ!」 金「言う、言うよ。だから…………、10銭。」 父親:じゅ……!た、高いよ!オマエそれは高いよ!」 金「高くないよぉ。ついに男の正体が分かるんだよ?ものすごい情報だよ?ここまでの くだらない話とはワケが違うんだよ。」 父「そのくだらねえ話に もう20銭払ってんだよ!このうえ10銭も出せるワケねえだろ!」 金「あ、そう……。じゃ、この男の正体は、永遠にあたいの胸の内にしまっておこう……。うん……、そのほうがお父っつぁんのためだと思う……。あたいだって、血を見るのは嫌だしね……。こいつの正体をお父っつぁんが知っちゃったら……もう……修羅場……!」 父「わかったわかった!わかったよ!10銭やるからちょっと待ってろ!ほら、持ってけ!」 金「毎度ありがとうございまぁす。」 父「もういいよそれは!早く教えろ!」 金「あのね……横丁の按摩さんが おっかさんの体もみに来てたの。じゃあね(逃げる) 」 父「なッ…!!待てこん畜生!! (ため息)やられちゃったよ…………。」

母親「ただいま。」 父「あ!おっかぁ!どこ行ってたんだよ!」 母「やだね この人は。今日は お竹さんと芝居見物に行くって 言ってあったでしょ?どうしたの?
むずかしい顔して。」 父「おめえが早く帰って来ねえから、銭 盗られちゃったんだよ。」 母「あらやだ!泥棒かい!?」

父「違うよ。金坊だよ。」 母「馬鹿だねお前さん。だから いつも言ってるでしょ?お金を そこらに置きっぱなしに してちゃ いけないって。どこから持ってったんだい?」 父「俺の ふところだよ。」 母「やだねぇ……。常々 ボーっとした亭主だとは思ってたけど、まさかウチの中で、しかも自分の子どもに お金スられるほどボーっとしてるとは思わなかったねえ……。」 父「そうじゃねえよ。銭はこう、俺の手から金坊の手に渡ったんだよ。手渡しだよ。」 母「じゃあお前さんが あげたんじゃないか。何が盗られたよ、人聞きの悪い。」 父「いや、だから違うんだよ。やりたくてやったんじゃねえよ。だまし取られたんだよ。」 母「どういうこと?」 父「一杯喰わされたんだよ。ほら、こないだ俺が横浜 行った時によ、おめえ、按摩 呼んだろ?」 母「ああ、そうだったわねぇ。いつもの先生に 来てもらったの。」 父「その話をよ、金坊の野郎、やたらと思わせぶりに話しやがってよ……。もうこっちが 気になるように気になるように 話を持っていくんだよ。」 母「そうなの?」 父「そうなんだよ。いやもう、どう聞いたって、おめえが亭主の留守に他所の男ひっぱり込んでいかがわしい事やってるようにしか聞こえねえんだよ。またそれを 上手い具合に そこらじゅうで ぶった切ってよ、のつど5銭払えの10銭払えの言ってきやがって。それで たんまり取られちゃったんだよ。」 母「やだねぇ この人は。どうしてお前さん そんなのに引っかかるのさ。わかりそうなもんじゃないか、按摩の先生だって。」 父「それがそうじゃねえんだよ。あの野郎の話しぶりがよォ、上手いんだ これが。『オシャレ気取りで真っ白な上着羽織って』なんて言いやがって。よく考えたら白衣のことなんだよ。『カッコつけて色付きの眼鏡なんか かけて。』あの人、別にカッコつけてるわけじゃねえんだ。ちょっと目が不自由だから、日頃から色付き眼鏡かけてるだけじゃねえか。『おまけにステッキまで持ってんの。気取ってるでしょ?』だってよ。ただの杖じゃねえか!こういうところがあの野郎うまいんだよ……。おかげでまんまと一杯喰わされちゃったよ。」 母「うまいことやるもんだねえ。あの子はホントに知恵が働くからねえ知恵じゃあ、あたしもお前さんも、もうあの子に敵わないかもしれないね。でもいいじゃないか。あれだけ知恵があるんだから、ゆくゆくは立派な人になるよ。」 父「冗談言っちゃ いけねえよ。立派な人になんて ならねえよ。あいつの知恵ってのはな、あったところで悪知恵だ。悪い方には働いて、いい方には働かねえんだ。」 母「そんなことはないだろ。良くたって悪くたって、知恵は あったほうがいいじゃないか。」 父「いや そうじゃねえんだ。知恵の使いどころってのがあるんだよ。」 母「知恵の使いどころ?」 父「そう。おめえは 金坊が ゆくゆくは立派な人になる なんて言うけどよ、立派な人ってのは、知恵の使いどころが違うんだよ。」 母「そういうもんかい?」 父「そういうもんだよ。ホラ、オレ講釈が好きで、よく講釈場へ聴きに行ってるだろ?講釈には偉い人の話がいっぱい出てくるんだ。そういう話を聴いてるとな、偉くなる人ってのは、せえ時分から、知恵を使うところが違うんだ。ウチの金坊みたいに 親を騙すなんてことは しねえよ?こないだ聴いたやつだってそうだ。」 母「何聴いてきたんだい?」 父「『真田三代記』だよ。天正の何年かって時代に武田勝頼が天目山に立てこもって、信州上田の真田安房守昌幸に助っ人に来てくれるよう頼んだんだ。助っ人を頼まれた真田が軍勢を率いて駆けつける途中で、敵方の大道寺駿河守と松田尾張守との挟み撃ちに遭ってしまった。さぁこれでは 行くことも退くことも かなわない。明日はいよいよ 主従揃っ真田安房守の倅の『与三郎』って男が 進み出てきた。この与三郎が、ウチの金坊と同じくらいの歳なんだよ。で、その与三郎が、父である安房守の前に手をついて言った。

『父上、これしきのこと、心配ご無用。 わたくしに、永楽通宝の旗印を六れお許しくだされ。永楽通宝は松田尾張守の旗印だ。そいつを6つ持たせてくれって言うんだな。安房守は、そんな物どうするんだろうと思ったけどきっと何か考えがあるんだろうと思って 用意してやると、与三郎はその晩その旗印を持って、大道寺の方へ夜討ちをかけた。『夜討ちだ!』ってんで大道がひょっと見ると、松田方の永楽通宝の旗印がひらめいてる。「さては松田が裏切ったな!」ってんで、松田と大道が同士討ちになった。その隙に、真田軍がみんな逃げのびたって話だ。どうだい、知恵が働くだろォ?この人はな、後に大坂方の軍師で『真田左衛門佐幸村、真田幸村』になったって話だ。真田家の家は、もともと『二つ雁金』だったんだけどな、『永楽通宝』の旗が六本あったので助かったことを いつまでも忘れねえように ということで、幸村の頃から、六連銭へと変わったって話だ。

やっぱり偉くなる人ってのは小せえ時から違うんだよ。まぁそんな幸村も、最後、落城の時には、敵の謀り事にかかって、切腹して果てたともいうし、講釈師に言わせると 薩摩へ落ちたのが本当だと言うが、俺も考えてあのくらいの人だから薩摩に落ちたのが本当だろうと思うんだが、その天目山の戦の時がまだ十四歳だぜ。うちのやっこは十二歳だぜ。年齢は二つしか違わねえ。味方一同を助ける知恵と、親から銭をふんだくる知恵と、大変な違いじゃねえか。」 母「そうかしらねえ?ウチの子だって、大きくなりゃあ真田幸村みたいに なるんじゃないかい?」 父「サナダムシにだって なりゃしねえよ。本当に悪知恵だけは …‥‥オイ、ちょっと後ろ見てみな。その戸袋ところ。妙なもんが ピョコンと見えてんだろ?あれはあいつの耳だよ。親の話、盗み聞きしてやがる。オイ金坊!そこにいるのは分かってんだよ!こっち入って来い!」 金「エヘヘ……。ど~も先ほどは失礼。」 父「失礼すぎるんだよ。おめえなぁ、さっきのは良くねえぞ。あの銭は お父っつぁんからもらったんじゃねえだろ?騙しとったんだろ?さ、返せ。」 金「いやぁそれが もぉ…………使っちゃったんだよぉ。」

父「使ったァ?何言ってんだ。そう言えば許すと思ってんのか?おめえみたいな子供があれだけの銭、
いちどきに使えるわけねえじゃねえか。使ったって言うなら、何に使ったか言ってみろよ。」 金「講釈聴いちゃったんだよ。」 父「こういう奴だ。親の好きなもんに合わせときゃあ 機嫌が直ると思ってやがる。講釈聴いた?よぉし、お父っつぁん、講釈には詳しいんだ。本当に聴いて来たかどうか、お父つぁんが確かめてやる。何聞いてきたんだ。」 金「『真田三代記』」 父「ほぉ……。言ったな?よぉし、本当に聴いて来たってんなら、どんな話だったか、今ここで言ってみろよ。」 金「うん。いいよ。あのね、天正の、何年かって時代にね、武田勝頼って人がね、天目山っていう お山に立てこもっちゃったの。で、真田安房守って人に助っ人を頼んだんだって。で真田安房守が軍勢を率いてくる途中で大道寺駿河守と、松田尾張守にね、挟み撃ちにされちゃったの。で、行くことも退くことも かなわなくなっちゃって、いよいよ明日は主従 揃って討ち死にか?ってことになっちゃったの。そしたら安房守のせがれで、『与三郎』ってのが、進み出てきたの。この与三郎がね、あたいと同じぐらいの歳なんだって。この子がと~っても利口なんだってさ。たとえ親父が馬鹿でも。」 父「うるせえんだよ。余計なこと言わなくていいんだよ。」 金「で、その与三郎って人が、お父っつぁんの前に手をついて、『父上、これしきのこと、心配 ご無用
わたくしに、永楽通宝の旗印を 六流れお許しくだされ』って言ったの。『永楽通宝』の旗印っていうのは、敵の、松田尾張守の旗印なんだよね。それを6つ持たせてくれって言ったの。安房守は、そんな物どうするんだろうなって思ったけど何か考えがあるんだろう と思って 持たせてやるとね、与三郎は、その晩その旗印を持って、大道寺の方へ夜討ちをかけたの。で、夜討ちをかけられた大道がひょっと見ると、松田の旗印がひらめいてるもんだから、『さては松田が裏切ったな!』ってんで、松田と大道寺が、同士討討になったの。で、その隙に、真田軍がみんな、逃げのびることができたってお話。で、この与三郎が大きくなって、大坂方の軍師の『真田左衛門佐幸村』、真田幸村って人になったんだって。えらいもんだよねぇ。で、真田家の家紋ってのが、もともとは『ふたつかりがね』だったんだってね。 それが、『永楽通宝』の旗が六本あったおかげで助かったことを いつまでも忘れないように、幸村の頃から、『りくれんせん』ってのに、変わったんだってさ。でも、それだけ偉い人でも、最後の落城のときには、敵の謀り事にかかっちゃって、切腹したともいうし、薩摩へ落ちたとも言うんだってさぁ。 ここまでで、なにか違ってるところはございますかぁ?」 父「あってるよ。そこで聞いててすっかり覚えちまいやがった。やなガキだよ。俺は講釈場へ3カ月通って ようやく覚えたってのによ。」 金「あの、お父っつぁん、ちょっと うかがいたいんですけど。」 父「なんだよ?」 金「あのさ、『ふたつかりがね』っていうのは、どういうの?」 父「二つ雁金ってのはアレだよ、雁が2羽 飛んでるやつだよ。」 金「なるほどぉ。じゃあ、『りくれんせん』ってのは、どういうの? 父「六連銭ってのはな、『むつれんせん』とも言って、永楽通宝 ―― 昔の銭だよ、それが6つ繋がってるんだよ。」 金「ふぅん。銭が6つ……。どういうふうに つながってるの?」 父「6つの銭が、こう……3つ3つで つながってるんだよ。」 金「3つ3つで……?どういうこと?」 父「だから……、こう、ひぃふぅみぃ、ひぃふぅみぃ、って つながってるんだよ。」 金「えっと、ひぃふぅみぃ、ひぃふぅみぃ?」 父「いやそうじゃなくて、横に、ひぃふぅみぃ、ひぃふぅみぃだよ。」 金「え……?横に、ひぃふぅみぃ、ひぃふぅみぃ……?」 父「いやそれじゃ縦だろ?そうじゃなくて、横に、ひぃふぅみぃ、ひぃふぅみぃだよ。」 金「ん~、あたいよくわかんないよ……。」 父「なんでわかんねえんだよ。ちょっと待ってろ。ほら、いいか?これ、1銭の銭だ。これは今の銭だけどな、これを昔の永楽通宝あだと思え。な?これが、こう、6枚あんだろ?六連銭てのは、この銭が、こう、ひぃふぅみぃ、ひぃふぅみぃって並んでるんだよ。わかったか?」 金「あーなるほど!こういうことかぁ!こうやって並べてみるとよくわかるね!ねえねえお父っつぁん、あたいもそれ、並べてみていい?」 父「おう、やってみろ。自分で目の前に並べてみりゃあ よく分かるだろ。」 金「えーっと、ひぃ、ふぅ、みぃ、ひぃ、ふぅ、みぃ……と。こうだね?お父っつぁん!」 父「ああ、そうだよ。」 金「ありがとお父っつぁん。 じゃ、もらって行くね。」 父「あっ!待て!この野郎!それでまた講釈 聴きに行くってのか!」 金「いや今度は 焼きイモ買って食べるんだーい。」 父「焼きイモ……?ハァ……ウチの真田も、薩摩へ落ちた……。」

原話は、講談の「難波戦記(なんばせんき)」を題材に作られた上方落語「六文銭」だそうです。これを三代目柳家小さん(または江戸の落語家たち)が江戸に移植し、現在の『真田小僧』になったとされています。
短い持ち時間だと「横丁の按摩さんが肩揉んでいた。」で切る場合が多いですね。 私も最初に六代目・古今亭志ん馬師演をテレビ朝日「末広演芸会」で上記の演り方を視た時は「何故『真田』小僧なのだろう?」と不思議に思いましたね。 その後「落語百選~三省堂出版」で全文を読んで「そういうことか。」と納得しましたが。その後二代目・桂文朝師演、三代目・三遊亭圓之助師演、十代目・翁家さん馬演師を聴きCDやネットで三代目・三遊亭金馬師演、六代目・三遊亭圓生師演、五代目・柳家小さん師演、三代目・古今亭志ん朝師演で聴きました。
季節はやはり秋でしょうね。「焼き芋」はやはり晩秋から冬にかけての食べ物ですからね。
時代背景も明治時代以降でしょうね。
真田幸村という人はNHK大河ドラマ「徳川家康」「真田丸」等ご覧になった方ならお分かりかと思いますが、大坂夏の陣では徳川家康を絶対絶命のピンチに追い込んだ策略家です。 江戸時代にそういう人物を英雄として讃えるのはご法度だったでしょう。

江戸時代に書かれて上演された浄瑠璃「近江源氏先陣館」「鎌倉三代記」では真田幸村は鎌倉時代の武将の佐々木四郎高綱と時代と名前を変えて語られてます。 この二作品は徳川家康と豊臣秀頼の争いを北条時政と源頼家の争いに置き換えて書かれてます。 ですから人物を徳川家康→北条時政、豊臣秀頼→源頼家、真田幸村→佐々木高綱と置き換えている他、真田信幸を佐々木盛綱、後藤又兵衛を和田兵衛、木村重成を三浦之助義村、大野道犬を大江入道、淀の方を宇治の方、千姫を時姫として語っています。 歌舞伎でも上演されますが佐々木高綱と言う人物は敵の目を欺く為には、「近江源氏先陣館~盛綱陣屋」において幼い我が子を切腹させるなど手段を選ばないというかこの上なく大胆な策を用いる武将として演じられてます。 「鎌倉三代記~絹川村閑居の場」ではクライマックスシーンで佐々木高綱の衣装がぶっ返る演出(その人物が本性を現す歌舞伎ならではの演出)があるのですが、その衣装は真田幸村の六連銭の旗印に因んで古銭の紋を散らした衣装になってます。

「鎌倉三代記」の佐々木高綱は三浦之助義村と示し合わせて時姫に父親である北条時政を討たせようとするのですが、その作戦もかなわず、最終的に琉球に落ちるという結末なってます。 実際の真田幸村が薩摩へ落ちたという説から来ているようですね。 文楽浄瑠璃は大阪を中心に発展した芸能ですから、真田幸村には討死せずに薩摩で生き延びて欲しいという願望もより強かったかも知れません。
薩摩芋は焼き芋も美味しいですけど、私はたまに牛乳と蜂蜜で煮たてレーズンを散らしたおやつも拵えます。これも美味しい。

ぐっと寒くなってきました。
皆様、御身体にお気をつけください

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