酷暑の夏。こんな噺で涼みませんか?

落語

今年は猛暑じゃなくて酷暑というのですね。

酷暑と猛暑の違いは。

最高気温が35℃以上の日「猛暑日」と呼びます。                         日常生活やニュースでは、35℃以上の暑さに対して注意を促す際に使われます。                               最高気温40℃以上の日を「酷暑日」。                             これは気象庁が2026年4月17日に定義・決定したそうです。                  冷房が欠かせない日々ですが、こんな噺では涼めませんでしょうか。

夢見の八兵衛(夢 八)

源兵衛に呼ばれて八兵衛がやってくる。                               源兵衛「お前さん、具合が良くないのかい?」                            八兵衛「夢ばっかり見るんです。」                              源「夢は誰でも見るだろう?」                                 八「それが夜だけでなく昼も夢見るんです。見ている夢の中のあっしがまた夢を見ていて、その夢の中のあっしが夢を見ているんです。またその夢の中のあっしも夢を見てまして、またその夢の中のあっしが・・・・・。」                                        源「妙な夢だな。」                                     八「だから、何回も起こしてもらわないと夢から覚めないんです。」               源「そんな夢ばかり見るのか?」                                  八「この頃は旅をしている夢を見るんです。『伊勢詣り』の夢をよく見るんで。

そんな調子だから仕事も出来ないんで。金がないから三日間も食べてないんです。」                            

源「ではお前に仕事を世話したい。簡単な仕事で一晩一両で飯付きなんだが。」

                                               八兵衛「一晩一両で?飯付き?どんな仕事で?」                        源「つりの番をしてもらいたい。」                                八「釣りは大好きなんです。」                                源「いやつっている人の晩をしてほしい。」                           八「釣りは見ているのも楽しいですからね。是非やらせてください。どこで釣りをやってるんです。」源「私の持っている長屋なんだがね。そうか?ではこれから私と一緒に来てくれ。あ、そこにある薪ざっぽうを一本持っておいで。」                                長屋のどこで釣りを?不思議に思いながら源兵衛の後をついていく八兵衛。

源「この路地口が差配の家だよ。一応挨拶ぐらいしておかないと明日の朝、お前の顔見てびっくりするといけないから。(ノックしながら)おいお直さん、お直さん。」                 お直「(ひどく怖がっている様子で)大家さん!!!」

  源「(びっくり)」大きな声だな。」                              直「なんでもっと早く来てくれないんですか!?」                       源「すまなかったね。遅くなって。ところで隣の家はどういうことになっている?」        直「どうなったもこうなったも、さっきお役人が来て『明日にならないと調べはつかないから、それまで誰も触っちゃいけない。』でしょう。しょうがないからあのままなんですよ。」          源「あのままって?」                                     直「つりっぱなし。」                                     源「つりっぱなし?何だい下ろすぐらいしてくれたってよさそうなもんじゃないかねえ。長屋がずいぶん静かじゃないか?」                                     直「前のお雪さんは気持ち悪いからと引っ越して、お花さんはおっ母さんがお産すると行ってしまった。おっ母さんは八十六なんですョ。お年さんは子供を連れて里に帰ってしまった。残ったのは私一人なんです。怖くて怖くて・・・・・。」                            源「それはすまなかったね。もう大丈夫。あそこに立っているうすぼんやりした男。あの男に番をさせるから。あいつには『つりの番』とだけ言ってあるから。それからたのんでおいたもの出来ているかい?ああこの風呂敷包み。ありがとう。お前さんはもう休んでくれて良いから。ごくろうさんだったね。(八兵衛に)おいおい、お前こっちに来な。隣のこの家だ。」                  八「こんばんはー。」                                     源「ここは誰もいないよ。それでお前がここに番に来たんだよ。」                 八「すごい真っ暗ですね。」                                 源「そこに蠟燭があるだろう。そうそれに火をつけて。」                          八「畳がありませんね。」                                   源「ああ、全部上げちゃってるんだ。そこに筵があるだろう。それをここに敷いて。ああ、その風呂敷包み明けて見な。」                                     八「わ、すごい煮しめが。」

源「それ、お前が食べていいから。」                             八「え?いいんですか?頂きます。人参・・・・・牛蒡・・・・蓮・・・・・がんもどき・・・・・。」                                        源「下の重箱も見てごらん。」                                 八「わ?おにぎりがいっぱい。」                                源「それも食べていいよ。」                                 八「頂きます・・・・いい米使ってる・・・・・うがうがうが・・・・。」 

 源「おいおい、しゃべるか食べるか、どっちかにしな。それから、持ってきた薪ざっぽうでそこの床を叩きな。」                                            八「どんな風に?」                                      源「お前の好きなようにでいいよ。」                             八「ではこんな具合ではどうです?」                              タンタタンタン タンタタンタン
源「面白い節がつくな。まあそんな感じで、叩くの止めないようにな。」               八「ええ?どうしてです?」                                  タンタタンタン タンタタン                                  源「お前はすぐに夢を見るのだろう?お前にはここで寝ずに『つりの番』をしてもらわなきゃならない。そこ叩いていたら寝ずに済むだろう。」                             八「ああなるほど、こいつは眠れませんね。で?『釣り』はどこでやってるんです?」         タンタタンタン、タンタタンタン
源「前に筵が下がっているだろう。その向こうでやっているけど、向こうは見てはいけないよ。」  

八「いけないんですか?」                                  タンタタンタン タンタタンタン                                  源「ああ見ちゃいけない。お前はそこで朝までそこを叩いて、喰ってれば良いのだから。」       八「これで一両もらえるんですか?楽な仕事だね。」
タンタタンタン タンタタンタン


源「ではよろしく頼んだよ。私は帰るから。」                                 八「ええ、帰っちゃうんですか?」                                  タンタタンタン  タンタタンタン
源「外から心張り棒をかっておくよ。」
八「駄目だよ!外からかっちゃ!!出られないじゃないですか!!!」
タンタタンタン  タンタタンタン
源「出られちゃ困るんだよ。じゃ、明日の朝一両持って来るから。頼んだよ。」
八「ちょっと!源兵衛さん!しょうがねえなあ。まあ飯もあることだし、朝までこうして時を潰すか・・・・・・・。」                                     タンタタンタン タンタタンタン

(握り飯を頬ばりながら、薪ざっぽうで床の上を叩きながら、目を凝らしながら前に吊ってある筵をじっ と見る。)                                          八「源兵衛さん!筵の向こうに誰かいますよ!」                        タンタタンタン  タンタタンタン                                        八「ああそうか。一人じゃ寂しかろうと思って、もう一人寄越してくれたんだ。それならそうと言ってくれればいいのに」
タンタタンタン タンタタンタン
八「もし、向こうにいる人。美味い握り飯がありますよ。こっちに来て一緒にどうですか?頭が見えてますよ。」


タンタタンタン タンタタンタン
八「ずいぶん背の高い人だな。」
タンタタンタン   タンタタンタン
(筵の下を覗いてみる)
八「足が宙に浮いている。ずいぶんつらそうな姿勢だな。もし・・・・。」

吊ってある筵もそろそろ落ちようかなあと思っているところを触られたものですから
パラリと落ちるとその向こう側には
この長屋に住む独り者、世をはかなんでか縄を梁に通してそこに首を引っ掛けて

八「わあああっ!!!源兵衛さん!!!!」                           タンタタンタン タンタタンタン(震えで叩く音が早まる)                     八「『つり』の番『つり』の番て『首吊り』の番じゃありませんか!!!」                                             

怖いのに食べるのはやめませんで。

八「『つり』の番って『首吊り』の番じゃありませんか!!!」                 タンタタンタン タンタタンタン                               八「『首吊り』なら『首吊り』って早く言ってくれればいいのに!!!」             タンタタンタン タンタタンタン                               八「叩くの止めるなって、手が震えて止められないよ!!!」                 タタンタタンタン タンタタンタン

宵のうちは大したことはありませんが、夜も更けてくると風の音ものすごく・・・。        そこへこの長屋に年古く住む猫。                               尻尾が二股に分かれていようよいう。                             屋根の上をミシッ ミシッ 

  猫「ギャーオー!ニャーオー!ニャーゴー!」                          

八「わあああ!!!源兵衛さん!!!」                              タンタタンタン タンタタンタン

猫が引き窓から覗くと、「首吊り」相手に泣きっ面している奴がいるので              猫「こいつびっくりさせてやろう。」                             と悪い猫で引き窓から「首吊り」に息をフーッ。                          毒気で「首吊り」がしゃべり始めまして

首吊り「おい・・・・そこの番人、番人・・・・・。」                      八「うひゃあああ!!!首吊りがしゃべったあああ!!!」                    首「今夜は賑やかだ。伊勢音頭唄ってくれ。   

  八「とても歌えません!!!」                                 首「唄わないとそこへ行って頬っぺたなめるぞ・・・・・。」                  八「わあああ!!!唄います唄います!!! ♪伊勢は津で持つ、津は伊勢で持つ~。 」        首「♪ア、よいよい」                                     八「唄わないでくれよ!♪尾張名古屋は城でもつ~」                      首「♪やーとこせー。」                                   八「唄っちゃだめだったら。」                                 節に合わせて「首吊り」が体をゆすり始めたもんだから、もうそろそろ切れようかなと考えていた縄がブツッと切れて、八兵衛の目の前にドサッ。                          八「う~ん。」                                        と目を回してしまいました。

源「お直さん。お直さん。」 

                                               直「まあ大家さん。今開けます。」                              源「夕べはどうだった?」                                   直「まあ、なんです、昨日の番の人は?夜更け過ぎまでやたら騒々しい音出したり悲鳴をあげたりで、そのうち何か唄い出したと思った、急に静かなったんですよ。」                  源「ええっ?急に静かに?寝ちまってるんだな。寝ずのばんだよっていっておいたのに。開けてみよう。ああ、ああ。見てくれ、こいつ『首吊り』と一緒に寝てるよ。おい!!八兵衛!!八公!!」   八「あ、唄う唄う!♪伊勢は津でもつ津は伊勢で持つ~。」 

源「あ、やっぱり『伊勢詣り』の夢見ている。」

原話についてははっきりわからないのですが上方ではかなり古くから演じられてきた噺のようですね。落語には、中国の笑話集や日本の古典文学(『宇治拾遺物語』など)からストーリーを借りて作った演目が数多くあります。しかし「夢八(夢見の八兵衛)」はそれらとは異なり、江戸時代末期から明治時代にかけて、上方(大阪)の落語家たちによって寄席の現場で練り上げられた完全なオリジナルストーリーとされているようです。
そのため、文字として残った古い原作はなく、落語の口承文化の中で自然発生的に誕生した噺だそうですね。                                           五代目・笑福亭松鶴師、東京で活躍した二代目・三遊亭百生師が得意にしていたようですが、私が最初に聴いたのは二代目・桂小南師演です。                             主人公が煮しめやおにぎりを食べている仕草も美味しそうでしたが、薪ざっぽうで床を叩きながらおにぎりをほおばり、目の前に現れた「首吊り」に怯えているアクションがこの上なく面白かったですね。                                             その後二代目・露の五郎兵衛師演を聴きました。                        両方ともNHKテレビで視ましたがCDでは六代目・笑福亭松喬師で聴きました。現在は東京でもかなり演じている落語家さんも多いようで、東京の落語家さんでは現・柳家蝠丸師演をラジオで聴きました。現役の落語家さんでは現・柳家小せん師演、現・柳家一琴師演、現・春風亭一之輔師演がネットで楽しめますね。                                           東京でも上方でも主人公は「伊勢音頭」を唄ってますが、私の考えでは東京の演出の場合、江戸前に「磯節」を唄わせるのも一興じゃないかななんて勝手に思うのですがね・。

八兵衛「♪磯で名所は磯で名所は大洗様よ」                          首吊り「♪さいしょねえ」                                   八「♪松が見えますほのぼのと」                                首「♪松がねえ~」                                       そのうち「首吊り」が「♪チャチャラカチャン」と音頭を取っているうちに縄が切れてドサーッ。     八兵衛は気絶。                                       翌朝、やってきた源兵衛が起こすと                              八「あ、唄う唄う。♪磯で名所は」                              源兵衛「呆れたな、『磯節』なんか唄って。」                         お直「『磯節』ぐらいいいじゃありませんか。」                          源「どうして?」                                      直「やっている仕事が『つり(釣り)』の番ですから。」

なんてサゲはどうですかね。

「酷暑」の時期に「ヒヤッ」と出来たらと思い今回は「夢見の八兵衛(夢八)」を取り上げましたが、実際この噺の主人公の八兵衛さんと同じ思いしたら「ヒヤッ」のレベルじゃないでしょうね。

挿絵の「煮しめ」のイラストですが「人参」「牛蒡」「蓮根」「がんもどき」の具を中心にとAIに頼んだらかなり贅沢に出来上がってしまいした。                           皆さんのお宅では「煮しめ」はどんな具材を入れますか。

私はよく「人参」「牛蒡」「蓮根」「蒟蒻」「鶏肉」を具に作ります。

酒のつまみにも飯のおかずにも最高。

暑い日が続きます。

皆さま御身体を大事にしてください。

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