前回は江戸噺の「野ざらし」を取り上げました
今回は上方噺の「骨釣り」を取り上げたいと思います。
骨釣り
あ

繁八(幇間)「若旦那、どこ行きまんねん、今日は?」

若旦那「船に乗ったら船頭任せといぅことがあるが、まぁ任しといたらえぇがな。」 繁「『任しといたら』て、こぉ南へ南へ下がって海へ入ったらどないなりまんねん?」 若旦那「入ったら入ったでえぇやないか。」

繁「よぉそんなこと言ぅてんなぁあんた、こんな屋形船で? ヒョッとひっくり返ったらわたいら泳ぎを知らん……。」 若「うるさいなぁもぉ、幇間の陰気なんはかなわんけど、お前みたいにギャ~ギャ~ギャ~ギャ~しゃべってんのんも困るで。心配せぇでもえぇ船が止まった。」 繁「ほぉ、止まりましたなぁ。」
若「真水と塩水の入り混じるあたり、この辺で船を止める。そぉすると魚が一番よぉ獲れるんや、船頭は心得てんねん。今日は魚釣りをするねん。」
繁「魚釣り? 魚釣りしてどぉなりまんねん?」 若「魚釣りを楽しむねや。」

繁「ほな何でやすかい、今日のご趣向は芸妓からわたしらからみなお供してやるのん魚釣り?」 若「うるさいなぁ、お前は。魚釣りは面白い。」 繁「何を言ぅてまんねん魚釣りみたいなもんどこがオモロイねん、あんなもん。」 若「面白味はやったもんやないと分からん。」 繁「やったさかい言ぅてまんねや、わたしゃやったことあるよってに言ぅてまんにゃがな。手は生臭そなるし気色の悪い餌触らんならん、あんなもん大嫌いや。」 若「お前のために来てんねやないねやさかいな、客はわしやねんさかい。」 繁「わたしゃあんな殺生なことせぇしまへんで。」 若「あぁそぉか、殺生なことはせぇへんか。ほな、せなんだらえぇがな。今日の魚釣りにはちょっと
した趣向があんねやで。」 繁「どんな趣向でんねん?」
若「銘々が釣上げた魚ん中で一番大きぃやつをわしの前へ持って来る、それに
わしが尺(さし)を当てごぉて計ってやなぁ、一寸につき一円の祝儀を出そっ
ちゅうねや。」 繁「何でやすて? 一寸につき一円の祝儀。ほなあんた、五寸の魚やったら五円だっか?」 若「そや。」
繁「へぇ~、目の下三尺の鯛てなこと言ぅ、目の下三尺の鯛てな滅多にないやろけど、目の下一尺ぐらいやったらおりまっせ。目の下一尺やったら目の上かて三寸や四寸あるがな、尾ぉかて一寸からあるやろ、ほたこれあんた、一尺六寸あったら十六円?」

若「そぉや。」 繁「それ、おくなはる?」 若「そや。」 繁「この場で?」
若「そや。」 繁「現金で?」 若「そぉや。」
繁「はぁ~、それでみな一生懸命あんなことしとんねやがな。平生釣りなんかしたことない女ご連中がやってると思たら……、こらオモロイ。わたしらかてなんでっせ、目の下五寸や六寸の魚は獲れると思うなぁ。目の下六寸あってみぃな、目の上二寸あるがな、尾ぉかて一寸あるがな、ここは食われへん
さかいここまでてな、それは汚い……。」
若「何を言ぅとぉる、勝手にしゃべってんねやがな。心配せんでも頭の先から尾ぉの先まできっちり計って、ちゃんと祝儀やるっちゅうねん。」 繁「こらおもろい、こぉなったらわてもやるわ。」 若「お前、魚釣りは嫌いやろ?」 繁「銭は好きでんねん、わたい。」 若「殺生なことはせぇへん?」 繁「小遣い稼ぎはするっちゅうやっちゃ……、道具は?」
若「そこら辺、何ぼでもある。女ご連中はな、竿扱い慣れてないちゅうて、みな糸釣りやってる。お前、えぇよぉにしたらえぇがな。」

繁「へぇなるほど、そらまぁこっちの舞妓やみな、そら竿扱い慣れてないか知らんけど、あっちの芸妓やみないろんな竿に当たって……。」 若「アホなこと言ぅてんねやない……。その継ぎ竿はなるべく使わんといてくれ、調子が狂たらいかんさかい。」 繁「弘法は筆を選ばず、何でも……。わたしゃやったことあるんでっせ何べんもやったことある、餌箱こっちかして……。しかし何だんなぁ、こぉなったら長いもん釣らな損でんなぁ。あのヒラメやとかカレェ、アカエェなんちゅう横に幅のあるのんあかん。やっぱりハモやとかウナギの方がよろしやす。・・・・・・えらいことした!」 若「どないしてん?」 繁「わたい、振り回した弾みにピッと針がかかってもた。わて五尺三寸おまんねんけどなぁ、ちょっと五十三円……。」
若「何をぬかしとんねん、左の手外してみ、左の手……。落ちてしもたやないか。それとも五十三円やるさかい、ブスッと引っかけさすか?」 繁「いえぇ、そんなえげつない目に遭ぉたらかなん……。さ、長いもんかかってくれよ長いもん、長いもんならヘビでもかかれ。」 若「おいおい、ヘビを釣り上げたりしなや。」 繁「大丈夫でやす……、若旦那! 打ち込むなりかかったで。」 若「そない、待ってたよぉにかかるか。」 繫「いぃえぇ、かかりました、かかりましたがな。さぁ上がってくる上がってくる……、ちょっと手
玉貸して、手玉……、何じゃ? ケッタイなもん上がって来たでこれ……、何やこれ?」

若「おい、そら人間のドクロ・・・・。」 繁「どどどどど・・・・・。」 若「ガイコツ。」 繁「ががががが・・・・・。」
若「うるさいっちゅうねや、えらいもんを釣り上げたなぁ。」 繁「気色の悪いもんがかかりやがったホンマに……、これ何寸ある?」 若「そんなもん何寸あったかてしょがないやないか。」 繁「うわぁ~ッ!」 若「待て待てまてぇ、放り込んだらいかん!」
繁「『放り込んだらいかん』て、放り込みま。」 若「放り込みなっちゅうねん、こんなところへ身を沈めてなはったんやで、何年前に沈んだかそら分からん、奇麗ぇなガイコツになってるやないかいな。おまはんの針にかかったんも何ぞの縁やで、これは手厚ぅ供養したげなはれ。」 繁「嫌やでそんな気色の悪い、どこの牛の骨や馬の骨や分からんのに。」
若「何が牛の骨や馬の骨や、どぉ見たかて人間の骨やないかい。考えてみお前、どこへ引っかかったか知らんけど、そんな小さい針にやで、引っかかって落ちもせずにズ~ッと上がって来たなんて、よくよくの因縁やないか。悪ぅは報わん、回向したげなはれ。どぉせまともな死に方したお人やなかろ、こぉ
いぅところへ身を沈めてなはったんや、手厚ぅ弔い。」
繁「触らぬ神に祟りなしっちゅうことがおますやないか、気色の悪い。」 若「あそぉか、ほんだらもぉおまはんせぇでもえぇ、わしが代わって供養さしてもらう。そぉいぅ薄情な男やとは知らなんだな、もぉこれからお前、贔屓にせぇへんさかい。」
繁「そんなこと言ぃなはんなあんた、あんたに見放されたらわたい立つ瀬がないがな、ちゃんと回向したりまんがな。」 若「してやんなはれ、悪ぅは報わん。」 繁「へッ、回向料。」
若「何やその手は?自分の小遣いでやってこそ功徳があるねやないかいな、わしも気持ちだけ包ましてもらう。ちょっと風呂敷か何かないかい、剥き出しでこんなん持ってられへんで、ちょっと包んで目立たんよぉにな。」
繁「へっ、おおきに……。なぁ若旦那。この骨(こつ)とわしが縁があったわけですなぁ。せやさかいこれ回向して弔おといぅよぉな殊勝な気になると、なんかこの魚釣りてな殺生なことする気がせんよぉなりましたんやけど、ちょっとその辺船着けてもぉて、わたいだけ先帰らしてもろたらいけまへんやろかなぁ?」
若「ホンにそぉじゃなぁ、こんなもんがかかったといぅのは、もぉ釣りなんか止めといぅ知らせかも分からんなぁ。よし、ちょっとみな竿上げなはれ、いやいやその賞金のほぉはまた考えるよってにな。ほんだら船頭、船を戻しとぉくれ、どっかへ船着けてご飯でも食べて帰るとしょ~か。」
というわけで、この繁八という幇間、一同と別れまして家へ帰って来る。何がしか供養料、回向料を包みますと近所のお寺へ持ってってそれを頼んで、帰って来て寝酒を引っかけてゴロッと横になっとぉります、その日の夜中でございます。

ひな「(トントン)ちょっと、ここお開け(トントン)ちょとお開けなされて下さりませ(トントン)夜分おじゃまをいたします(トントン)ちょとここをお開け。」 繁「ふぉ~っ、あぁ~、よぉ寝てるのにお前、一番眠たいとこ起こしやがんねん。どなたか知らんけどなぁ、寝酒が回ってえぇあんばいに寝とりまんねや、明日のことにしとぉくなはれ。」 ひな「お休みのところ申し訳ございませんが、ちょっとここをお開けなされて下さりませ。」
繁「えぇ? 女ごはんの声のよぉやなぁ、あんたどなただんねん?」 ひな「昼間お目にかかりました者・・・・・・。」 繁「昼間? 昼間誰に会ぉたんや……、どこでお目にかかりました?」 ひな「木津川口でお目にかかりました。」 繁「木津川口で……ひょっとしたら、あんたあの骨、骨と違いまっか……。あぁえらいすまなんだ、やったことがお気に障ったんやったらまた川に戻しに行きまっさかい、どぉぞもぉご退散を、どぉぞ。」

ひな「恨みを言ぃにまいったのではございません。お礼に参上いたしました。」 繁「お礼やなんて、もぉそれやったらハガキでよかったんでんねやがなあんた。わざわざお越しいただかいでも、そのお気持ちだけで結構でございます。」 ひな「ちょっとここをお開け。」 繁「開けられるかいな。」 ひな「開けてくださらねば、戸の隙間より……。」
障子にポッと明かりが差したかと思うと、それへさしてズゥ~ッ……

繁「で、出た! どっから入って来たんや、あんた? えぇ~っ、あんさんが昼間の骨? 何と奇麗なお人やなぁ~、あの骨があんたでやすかいな。はぁ、誰かが言ぅてたなぁ『別嬪やへちゃや言ぅたかて皮一枚の仕業や』ちゅうて、皮に善し悪しがあるわいな。あんさんみたいな奇麗な人がまた、何であんなところへ身を沈めてなはったんや?」 ひな「わたくしの申しますことひと通り、お聞きなされてくださりませ……わたしは島之内の袋物屋の娘でひなと申します。さる年の流行り病に、父母相次いで世を去り、みなしご同様となりましたわたしのところへ、親戚の者がやってまいり、親切ごかしに世話をやき、三代続いた家も屋敷も人手に渡り、わたくしには心にそまぬ縁談を押し付けられます。あまりの悔しさ、情けなさに、ふた親の元へまいろぉと、木津川へ身を投げましたが、身寄り頼りのない悲しさ、水ひと口の手向けもなく、浮かびも
やらで今日(きょう)が日まで、骸(むくろ)を沈めておりました。今日、あなた様のありがたぁ~いご回向にあずかり、浮かぶことができまする。せめて今宵はお礼に参上いたし、お寝間のお伽(とぎ)なと勤めさしていただきます。おみ足なりとさすらしてくださりませ。」

繁「えぇ~ッ、あんたみたいな人がわたいの足を? あぁ~そんなもったいないことできますかい、わたしが足さすらして……、わたしゃ女ごのひと按摩さしたらうまいんでっせ。わたしが足を、足はおまへんか。そらしょ~がないな、まぁまぁ、こっち来とくなはれ。よぉ来とくなはった、嬉しぃ。いえ、これから一つ心安ぅお願いしますわ。寝酒の残りがある、寝酒の残りまぁ一杯いきまひょ、一杯どぉでやす?」 ひな「おいただき。」 繁「けったいな手つきやなぁ、ほなまぁそれをグゥ~ッと空けてこっち返しとくなはれ。いやぁ、こら嬉しぃわ。あんさんみたいな綺麗ぇな人。」
てなもんで、幽霊と盃事して寝てしまいました。明くる日の朝。
喜六「(ドンドンドン)お早よぉ(ドンドン)繁やん(ドンドン)起きんかい、こら! 繁やん(ドンドン)。」

繁「ドンドン叩きないな。もぉ何や夕んべから寝込んだとこ起こされてば~っかりやがな。隣りの喜ぃさんやないかい。」 喜「喜いさんやあるかい、こら繁やん、起きんかい。」 繁「あんなぁ、もぉ掛け金も何もかか開けてこっち入って来い。」
喜「殺生(せっしょ)やで、お前。」 繁「何がい?」

喜「『何が』て、女ご連れて帰って来んねんやったら、ちょっとひとこと言ぅとけ。わしゃどこへでも泊まりに行くやないかい。こんな薄い壁一枚の長屋や、夜通しイチャイチャ殺生やっちゅうねや。」
繁「そらえらいすまなんだ、いや急に来たもんやさかいなぁ。」 喜「『急に来た』てお前、分かってたんとちゃうんかい?先ィちょっと……。」 繁「それが言ぅ間も何もなかったんや、わしも分からなんだんや。」
喜「『わしも分からなんだ』て、殺生な……、せやけどおい、別嬪やなぁ、あれ。」 繁「お前、見たんかい?」 喜「『見たんかい』てお前、気になって寝られへんねやないかい、どっか覗くとこないかいなと探したけど、こんな貧乏長屋でもさて覗くところちゅうたらないもんやがな、壁の薄そぉなところ商売もんのノミ持って来てゴリゴリッと穴開けて……。」 繁「おい、無茶しないなお前。」 喜「ちょっと覗いたけど、ビックリしたなぁしかし。あら、ただもんやないやろ?」
繁「あぁ、ただもんやないわい。」 喜「そぉやろ、あんな真夜中に堅気の娘はんが出て来られることはないし、と言ぅてあら小山(おやま)やないなぁ芸者やなぁ、それもよっぽどえぇとこの芸妓やろ、上品ながな。あらキタかミナミか新町かどこや? 出てるとこはどこや? キタかミナミか新町か、出てるとこ尋んねてんねや。」
繁「出てるとこは……、たいがい柳の下あたりや。」 喜「ケッタイなとこへ出てんねやなぁ。何でそんなとこへ……。」 繁「あらこの世のもんやないんやで。」 喜「えッ、あれ、幽ぅ……、これか? ほんで?」

繁「その、釣りに行てやなぁ、ちょっと供養、回向……。」
喜「はぁはぁ、ほたら晩に……。そぉか、魚釣りてそんな得なことがあんのんかい、知らなんだなぁ。わしゃ世間のやつらみな魚釣りに行く、何であんなもんがオモロイんやろ思てたんや、そぉいぅことがあったんかいな。そこの米屋の隠居、えぇ歳さらして三日にあげずに行っとんねん、ドスケベェが何
をさらしとぉねん。気が付かなんだなぁ、今から行てもあるやろかそんな骨は?」
繁「『今から行ても』て、そぉそぉはないと思うがなぁ。」 喜「木津川?」 繁「木津川のんは、わしがもぉ釣り上げてきたさかい、どこぞ川変えたほぉがえぇのん違うかえ?」 喜「それもそぉやなぁ、淀川、大川へでも行てみよか。」 繁「大川行たらあるかも分からん。」 喜「ほたらそないするわ。」
これがまたえらい話食いでな、気楽な男で友達に釣りの道具をひと通り借りてきまして、船を雇いましてな、船頭はん頼んで船出して大川で針を下ろしてみましたが、そぉ骨がかかってくれるわけはない、魚ばっかりがかかってくる。
喜「こんなもん要らんわい。」

みんなほかしてしもてな 喜「何で骨がかからんねやろ、いっぺん餌替えてみよか」 餌替えたかてかかるわけはない。しまいにくたびれ果ててしもて、
喜「あぁしんど。船頭はんちょっと中洲に船着けてくれ。ちょっとションベンするわ……。魚釣りに来たら魚も釣れへんのんか知らんけど、骨釣りに来てんのに魚ばっかりかかりやがんねん。」
中洲へ降りたちまして浪速の葦(あし)、蘆(よし)がびっしり生えてる、それをザァザァと掻き分けて用をたそぉっちゅうんで足を踏ん張ってヒョッと見ると前の砂地がこんもり持ち上がってます。フッと見たらガイコツが半分ほど顔のぞかしてる。
喜「こ~んなとこにいてけつかったんや! なんや川ん中探してもかかれへんはずやがな。そぉか、あっち木津川のほぉは糸にかかって上がって来た、おんなじ趣向ではオモロないさかい、こっちは趣向を変えて中洲におったと。それだけでは分からんさかい、顔、半分だけ出して、おいでおいでしてるや
なんて……。立派な骸骨やなぁ。よぉションベンかけなんだこっちゃ、こんなん頭からションベンかけたら、今晩来て屁ぇかまされるや分からん。おぉ~い船頭、あったあった、もぉ去(い)ぬわ。」
置換

ケッタイな釣りがあったもんでね、家へ帰って来るとおんなじよぉになにがしか包んで回向を頼んで、うちへ帰ってまいりいますと戸を閉めて寝たりはしまへんわ。明々(あかあか)と灯を点けて、酒肴用意して、表張り上げて待ってけつかる。
喜「さぁ来いよ~……。さぁ、どんな骨が来るやろなぁホンマに。おい繁やん、まだ来ぇへんがな。」繁「うるさいなぁ、あかの宵から来るかいな。」 喜「宵から来てもらわんと困んねやがな。夜中まで待たんならん。」 繁「『待たんならん』て、わしゃ寝てたんや、寝てたらトントンと叩いて夜中に……。」 喜「あかんあかん、そんなもん夜中に来られたら、わしゃ酔ぉてしもたら牛が暴れ込んだかて目ぇ覚ま
さんぞ。早いこと来てもらわな困んねやないか……茂やん、来ぇへんがな!」 繁「わしに怒ったかて知らんちゅうねん。」 喜「お前が請け合ぉた。」 繁「請け合わへんで、そんなもん。」 喜「お前はえぇわい。旦那に花買ぉてもろて、銭儲けしながら骨釣って来たんや。わしゃお前、船頭頼んだぁる、船頼んだぁる、なんじゃかんじゃ入費(にゅ~ひ)がかかったぁるねん。これで来なんでみぃクソォ、どんな目にあわすか……遅っそいなぁ!」

繁「あのなぁ、閉めて寝てなあかんねん。お前みたいにあかあかと張り上げたら、向こぉも入りにくいんと違うか。」 喜「それもそや。やっぱり若い女ごがこないして表灯ぃ点けて張り上げたら入りにくいわい。ほんだ
らまぁ、ちょっとだけ片寄せとくわな……。おい、こっち来て一緒に呑めへんか?」 繁「もぉ知らん、勝手にしてくれ。もぉわしのほぉ声かけんといてくれ。」
喜「なんぬかしてけつかんねん『声かけんといてくれ』やなんて。来なんだらあいつと話せなしゃ~ないやないか(グビグビグビ)よぉ~回って来たぞ、こらホンマに、早よ来さらせホンマ……。繁やん! ヒョッと間違ごぉてそっち行ったらこっち回してや、お前とこ二晩続きあかんで。あっちのほぉへ道
に馴染みができたぁるっちゅうて、あっちのほぉ行きやがったらさっぱりワヤや。(グビグビグビ)眠となる、眠となるさかいに眠気覚ましに酒呑む、酒呑んだらよけ眠となる、こらあかんわ。こんなとこへ表をトントンと叩いたぐらいでは起きんで(グビグビグビ……)せやけど何やなぁ、きのう隣りへ来
た骨はちょっとオボコ過ぎて、あぁいぅのはわしらあかんなぁ。三つ指ついて『わたくしは』てなこと言われたら扱いよぉに困るがな。もぉちょっとガラの悪いほぉがえぇで。二十七、八から三十出たか出んかっちゅうあたりのところで、下駄ばきかなんかでやなぁ、カラコロ・カラコロ・カラコロ『今晩わ、骨やしぃ』『こっち入りぃな』……そのほぉが話早いわなぁ。『わたくしは』あんなんあかんで……『お前骨かいな、こっち入り上がりぃな。』『あんた、独りもんか?』『そのとおり、わしゃ独りもんじゃ。』『あんた、独りもんちゅうて、あてにならんわ。』『あてにならんちゅうたかて、わいと茂やんと二人がこの長屋で独りもんや。』『家では独りか知らんけど、あっちやこっちにえぇのがおるんかも知れんがな。』『そんなんあれへんて、わしゃそんな女ごにもてる男やない。』『いや、あってもかまへん、何人あってもかまへんねやけど、今までわ。これからはわたしといぅもんが来たんやさかい、今までみたいなことしてたらあけへんで、浮気したらあけへん。』『浮気なんかせぇへん。』『しそぉな顔や。』『せぇへんって。』『したらこれやし。』『痛いっちゅうてんねん。』……。」

石川五右衛門の霊「開門、かいも~ん!」 喜「……? えらい声がしたぞ『開門、開門ぉ~ん』っちぃよったなぁ……、どなたはんでやす?」 石「ご在宅か?」 喜「うわぁ~ッ『ご在宅か?』骨でやすか? 骨やったら掛け金も何もかかったないさかいな、遠
慮無しに開けてこっち入っとくなはれ。」
石「しからばそれへ、通るでござろぉ……♪(ガラガラガラガラッ)」
ノッシノッシと入ってまいりましたのは、頭は大百日鬘(おぉひゃくにちかづら)大百(だいびゃく)ちゅうやつ。バッサ~ッと髪の毛をオールバックの反対みたいなやつをウワァ~ッ。着てる着物はドテラ、綿入れに金襴(きんらん)の縫い取りがしてある。相撲の横綱のよぉな帯を締めまして、大段
平(おぉだんびら)横たえてノッシノッシとそれへ……

喜「えらい人が入って来た。あんた一体何だんねん?」 石「思い起こせばおおそれよ、われ京都三条河原にて処刑され、首足ところを変えたり。五体はバラバ
ラに切りほどかれ、流れながれて大川の、中洲に醜き骸(むくろ)をさらす。やんぬるかなと嘆く折から、あらありがたの今日のご回向。せめてお礼に参上なし、閨中(けいちゅう)のお伽(とぎ)なとつかまつらぁ~ん。」
喜「嫌やいやや、あんたのお伽わしゃ嫌やで断るで。男同士で何をするっちゅうねや……。せやけど、ものすごい人だんなぁ。あんた、一体、どなたはんだんねん?」

石「石川五右衛門じゃ!」
喜「あぁ、それで……、釜割りに来たか。」
前回取り上げた「野ざらし」よりも、成立は早く中国の明代の笑話本「笑府」の一編「学様」(男のもとに楊貴妃の霊が訪れ、別の男の所には張飛の霊がやって来る話)に近いのですがかなり長いこと演じられてなかったようですね。 1970年ごろに三代目・桂米朝師が古老の桂右之助師から聴き取り、東京に残る『野ざらし』を元に仕立て直したそうです。 三代目・米朝師の弟子の二代目・桂枝雀師も演じていた他、現・桂南光師も演じてます。サゲの「釜割り」が現在わかりづらいせいか、現・南光師は「やはり『カマ』に縁がある。」でサゲてますね。
今後も是非残って欲しい噺の一つです。
話がまた「野ざらし」に戻りますが、サゲで家に幇間(たいこ)が来たので主人公の八っつあん「昼間のは馬の骨だった。」と勘違いするのですが、もし供養したのが古代の生き物の骨だったらどういうことになったかななんてことも考えてしまったことがあります。
うっかりティラノザウルスとかの骨を供養してしまい、

それが礼に来たりしたりしたらもっと「災難」な話かな。 人間の姿をした「女」の霊が礼に来たけどやたら「肉食系」だったりしたら、体力ある若い男だったら喜ぶかも知れませんけど。


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