桜餅の季節に因んで

落語

この記事を書き始めている現在、私の近所の和菓子屋さんでもスーパーでも「桜餅」が出回っている季節です。

「桜餅」で連想するのがこの噺です。

おせつ徳三郎・上 (花見小僧)

娘のおせつが奉公人の徳三郎と深い仲になったという噂。                       旦那は小僧から花見へ行った時の様子を聞く。

小僧は口止めされているので、黙っていようとするが、話をすれば小遣いをやるが、しなければ灸を据えるといわれて少しずつ話を始める。
​「船で隅田川を上ると、向こうの船で芸者を上げている。徳どんがそれを見ていると、お嬢さんが、『私よりも向こうの船がいいのね』って怒ったんです」

「それからどうした」
「それでお終いです」
「お終いということがあるか。忘れたんだろう。灸を据えるから足を出せ」
「思い出しました。船から降りようとして、あたしがお嬢様に手を貸そうとすると、婆やさんが止めるんです。すると徳どんが『私が手をお貸ししましょう』と言うと、『徳や、お前なら願ったり叶ったり』、土手では婆やさんがすべったり転んだり」


「余計な事を言うな。それからどうした」
「それでお終いです」
「じゃあ足を出せ」
「言います。それから長命丸寺の桜餅を食べたんです」
「長命丸は薬の名だ。あれは長命寺という」
「へえ、それから」
「桜餅は、桜の葉を漬けて餅をくるんだ物だが、寺の坊さんが発明したそうだ」
「へえ、それから」
「あそこへ行って桜餅を食べないと、行った気がしないな」
「へえ、それから」
「それでお終いだ」
「じゃあ、足を出せ」
「あべこべじゃないか。それからどうした」
「おやおや、戻ってきちゃった」
  定吉が二人の仲を話して、徳三郎に暇が出ます。「お節徳三郎」の序でございます。



​【成立】
 作者は初代・春風亭柳枝師だそうです。「連理の梅ヶ枝」「恋の仮名文」という人情噺の発端だという。一時期は上・下「刀屋」に分けて演じるのが普通だったようですが、最近は上下通しで演じる落語家さんもかなりいるようですね。


 上の部分をステテコで有名な初代・三遊亭圓遊師が本文の前半だけを滑稽噺として独立させ、「隅田の馴れ初め」あるいは「花見小僧」という題で演じた。旦那はおせつ徳三郎の関係に納得がいったが、小僧の方が調子に乗ってまだ花車人形の真似をしているので、「もういい、あっちへ行け」「ちぇッ、ダシ(山車・出汁)に使われた」と落としている。初代・圓遊師演は船を使わずに人力で出掛ける演出だったそうですね。七代目・林家正蔵師演の輪タクで出掛けるという音源も残っていて市販されたことがありますね。
​ 灸で脅すやり方は五代目・古今亭志ん生師だけが演っていたもので、内海桂子師によれば、江戸では灸を使わなかったので、子供を脅すことは無かったとのことです。

私は「おせつ徳三郎」でとても残念な想いをしたことがあります。十代目・金原亭馬生師が「NHK東京落語会」で通しで演じたことがありまして、それがNHKラジオ「放送演芸会」でやっていたのを聴き逃してしまったことがありました。                               新聞の番組欄でそれを見つけて慌ててラジオを付けた時はもうサゲの部分で、おせつが両手で水を掬って「徳や、おまえもお上がり。」                               「おせつ徳三郎」を聴いたことがない私には「何でこれがサゲになるのだろう?」という疑問が長いこと残りました。                                       その後、二代目・桂文朝師が自身の独演会で「青菜」「おせつ徳三郎」を演じるというので労音会館に後者を目当てに聴きに行ったのですが演じられたのは上の部分だけでした。            その後、四代目・三遊亭圓遊師がテレビ朝日「末広演芸会」で「花見小僧」で演じているのを聴きました。この時は上記の「山車(出汁)になった。」のサゲがついてました。              「おせつ徳三郎」の全筋はその後、講談社文庫で早稲田大学教授・興津要先生監修「古典落語」で読みました。                                           それからだいぶ経ってから十代目・馬生師の通し上演の音源をCD「NHK落語名人選」で聴きました。上の部分は五代目・柳家小さん師演の音源も聴きました。                     私が一番聴いてて楽しかったのは四代目・圓遊師演ですね。

今回は「桜餅」に因んだ噺で華やかさの狙って「おせつ徳三郎」の上の「花見小僧」を取り上げさせて頂きました。                                        下の「刀屋」も改めて取り上げたいと思います。

去年は上野の山、王子飛鳥山の桜の話題を取り上げましたが、今年は「百年目」の背景でもある向島の桜も見物に行こうと思ってます。

コメント

  1. 立花家蛇足 より:

    長命寺の桜餅の葉は、現在伊豆松崎産オオシマザクラの葉を使ってます。
    伊豆の松崎と言えば、そうです、『文七元結』のモデルになった左官の神様伊豆の長八の地元です。
    長八記念館にもいつか行ってみたいです

  2. ヌーベルハンバーグ より:

    立花家蛇足さん
    コメントありがとうございます。
    地方出身の私は出不精な性格も祟ってか向島の方はあまり縁がなかったので今年は是非長命寺も含めてこの目で見に行ってみたいと思っております。
    >オオシマザクラの葉
    こういう予備知識を頂けるのはありがたいです。

    >伊豆の長八
    ネットで検索したら作品の写真も出て来ましたがああいう作品を鏝だけでサクサクっと仕上げるとはやはり「左官の神様」ですね。

  3. 立花家蛇足 より:

    押しかけついでにもうひと話題。

    静岡県松崎町には「伊豆の長八美術館」とともに名物「長八さくら餅」もあります。
    この桜の葉は、当然長命寺の桜餅の葉と同じです。
    昨年、全生庵の訪問記をアップしました。
    https://ameblo.jp/tachibanaya-dasoku/entry-12919452344.html

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