「酢豆腐」「ちりとてちん」の季節になりました。

豆腐(とうふ) 煮た大豆の搾り汁 (豆乳)を凝固剤(にがり)によって固めた加工食品。

東アジアと東南アジアの広範な地域で古くから食されている大豆加工食品であり、とりわけ中国本土(奥地を含む)、日本、朝鮮半島、台湾、ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、マレ ―シア、インドネシアなどでは日常的に食されている。現代ではアメリカ合衆国などにも普及している。

この幅広く愛されている食品が下記の生物に狙われやすくなった季節になりました。

カビ(黴) 菌類の一部の姿を指す言葉である。あるいはそれに似た様子に見える、肉眼的に観察される微生物の集落の俗称でもある。

そんな季節の噺を今回は取り上げたいと思います。

「酢豆腐」 あらすじ ある夏の昼下がり。                           暇な若い衆が寄り集まり暑気払いに酒を飲もうと相談をしているが、「宵越しの銭は持たない」が身上の江戸っ子たちには金がない。                                酒はどうにか都合するとして、安い肴はないかと考えていると、ある男が糠床の底に残っている古漬けでかくやの香こ(糠漬けの古漬けを刻んでミョウガや生姜を薬味として添えた料理)を作ればいいと提案する。

これは妙案だと皆喜ぶが、手が糠味噌くさくなるのがいやなので古漬けを引き上げる役を引き受ける者がひとりもいない。

やがて兄貴分の男が、昨夜豆腐を買ってあったことを思い出したが、せっかくの豆腐は与太郎が夏場にもかかわらず釜の中に入れて重石してしまったせいで腐ってしまっていた。

そこに伊勢屋の若旦那が通りかかる。                             知ったかぶりの通人気取り、気障で嫌らしくて界隈の江戸っ子達からは嫌われ者の若旦那を見た兄貴分は、この若旦那を困らせてやろうと思いついて彼を呼び入れると、「実は舶来物の珍味があるのだが、何だかわからねえ。若旦那ならご存知でしょう」と腐った豆腐を出す。              若旦那は知らないとも言えず、「これは酢豆腐でげしょう」と知ったかぶる。           さすがは通人の若旦那だと持ち上げられた上にどうやって食べるのか見せてくれと頼まれるといやとは言えず、仕方なく腐った豆腐を一口食べて苦悶する。                                  兄貴分が「若旦那、もう一口如何ですか」と声をかける。                    若旦那「いや、酢豆腐は一口に限りやす」。

原話は江戸時代中期の1763年(宝暦13年)に発行された『軽口太平楽』に収められているそうです。これを明治時代になって初代・柳家小せん師が落語として完成させたそうですね。

昭和においては八代目・桂文楽師、六代目・三遊亭圓生師が得意にしていた他、十代目・金原亭馬生師もたまに演じていたそうですね。昭和・平成にかけては三代目・古今亭志ん朝師が売りにしていた他、五代目・三遊亭圓楽師も演じてました。 なんてエラそうなウンチクを記してますが 実を言うと私は「酢豆腐」は本で読んだのが最初でした。 「少年少女名作落語〜偕成社」で読み、その後に興津要・編「古典落語〜講談社文庫」、安藤鶴夫・著「落語鑑賞」で読んで、聴く機会にはなかなか恵まれませんでした。                                          ご案内の方もいらっしゃるかと思いますが、「落語鑑賞」は八代目・文楽師の口演を文字化したもので、師の仕草についてもかなり細かく説明が書かれてました。

最初に聴いたのは現・三遊亭遊三師演をNHKラジオ「真打ち競演」ででした。 そしてNHKテレビ「夜の指定席」で五代目・圓楽師演を視ました。 三代目・志ん朝師演はおそらく師の他界後にTBSテレビ「早起き名人会」で視ました。                                   八代目・文楽師演、六代目・圓生師演はネットを通じて聴きました。                数えるほどしか聴けてないのですか、演者それぞれに本筋の導入部で「みんなで酒を飲もう。」というキッカケが違いますね。                                    八代目・文楽師、五代目・圓楽師、三代目・志ん朝師は、前の晩に兄貴分の熊ちゃんの家でみんなで飲んでそのまま蚊帳の中で寝てしまう。                              夜が明けてから正午になって、熊ちゃんが「みんな起きなくちゃいけませんよ。」と声掛け。     そして、部屋の中を掃除して外に水撒きをして、「暑気払い」に一杯に飲ろうという。        六代目・圓生師は仕事仲間が「仕事も済んだし、このまま別れるのもなんだから・・・・・。」と飲む話になって行きます。                                       現・遊三師は「仕事の話はそこまでだ。せっかく揃ったんだし・・・・・。」と仕事の打ち合わせを終えて飲む話に入ってました。                                  演者それぞれの考えによるところでしょうね。

酒の肴をどうしようかという件になり、金はないけど「山葵を利かせて中脂の刺身を食いたい。」なんて願望はいつの時代の人でも抱えていそうだけど、かくやこうこは好きだけどぬかみそ桶に手を突っ込んで漬け物を出す作業をみんな嫌がるというのは私としてはピンと来なかったのですが、八代目・文楽師演の中の辰っつあんなる人物の言葉を借りるなら、「喰っちゃうめえか知れねえけど、あのくらい野暮でドジに出来上がっているものァねえや。樽ん中ァ手ェ突っ込んでみろい、いつまでも爪の間に糠が挟まっているなんざァ、いい若ェ者のする仕事じゃねえや。」というこだわりがあったようですね。  そして、そこへ通りかかった半ちゃんなる二枚目気取りの男を呼び止めて「色男」「色魔 」「小間物屋のみいちゃんがお前に馬鹿な岡惚れ」などとおだてた挙句に「糠味噌桶に手を突っ込みこうこを取り出す」か「こうこを買う銭を出す」かの選択にまで追い込んで行く。

「糠味噌桶に手を突っ込み糠床かき回したり漬物を取り出したりする」ことが所謂「いい若いもの」にとって「野暮」で「ドジ」な作業であるという考えの連中の集まりであるということが伝わってないとこの件はピンと来づらいでしょうね。それと現代は糠床はかき混ぜるのではなくビニ―ルの袋の上から揉むのが増えてきているのではないでしょうか。

話はそれますが、「かくやのこうこ」のレシピ(?)が「酢豆腐」「家見舞い」で語られているので、私もビニールの糠床で一夜漬けた茄子でたまにつくるのですが、結構日本酒にピッタリですね。

古漬けで拵えたかぐやで飲もうという江戸ッ子の気持ちがわかります。               但し合うのは日本酒ですね。                                 ウイスキーを飲みながら食べた時の相性の悪さはこの上なかったですね。             ストレートのウイスキーの刺激感が薬味の生姜の風味をより尖った感じにしてしまうのですね。                    その点日本酒はサラリと糠の臭みと生姜の尖った感じを洗い流してくれて旨さだけを残してくれるのですよね。

林家彦六師が生前、娘さんと弟子の五代目・春風亭柳朝師、現・春風亭小朝師とともにNHKテレビ「きょうの料理」に出演したことがありました。                        番組で師の家庭料理を紹介し、その中に「かくや」もありました。                彦六師はおろし生姜が好きじゃないので鰹節をかけていたようですね。

人物の描き方では、六代目・圓生師演、五代目・圓楽師演、現・遊三師演では飲む相談をしている連中は、台詞の端から職人たちの集まりかなと思わせるのですが、八代目・文楽師演を聴いていると夏の暑い期間は仕事しない連中なのではとも思えるんですね。                     杉浦日向子先生によると昔の三代続いた江戸っ子は比較的、現代でいう「フリーター」が多く、日雇いの仕事で生活している人たちが多かったようですからね。                    十代目・馬生師演では兄貴分にカミさんがいる設定になっていたようです。

この連中にいじられるは半ちゃんみたいな人物は私たちの周囲にもいると思いますが、終盤にdてくる「通人」の若旦那はちょっと特異でしょうね。                         八代目・文楽師も六代目・圓生師もこのキャラに設定にはモデルとした人物がいたようです。     現代ではこういう人物は実際にいるかどうかですね。                      漫画・ドラマの世界を思い浮かべてみた結果、赤塚不二夫先生の「おそ松くん」の「イヤミ」とかどうかなと思ったことありますがちょっと違うかな。                       「酢豆腐」食べて「シェーッ!」てのわね(笑)

今回は「酢豆腐」だけでかなり長くなりました。                       「ちりとてちん」はまた次回取り上げたいと思います。

六月に入り私の家の庭にも紫陽花が花開き始めました。満開の時が楽しみです。

コメント

  1. 立花家蛇足 より:

    かくやの香々には、以外と渋めの赤ワインが合います。
    もちろん日本酒が一番合いますが……。
    ピクルスにも日本酒が一番ですね。

    あたくしも三代続いておりますが、「フリーター」ならぬ「プー太郎」です

    『酢豆腐』で一本書いてます。
    ダラダラと長いので、お暇な時にでも……。
    https://ameblo.jp/tachibanaya-dasoku/entry-12822864063.html

    • ヌーベルハンバーグ より:

      立花家蛇足さん。
      いつもコメントいただきありがとうございます
      「かくや」と赤ワインが合うとは初めて聴きました。
      明日は仕事は休みだし試してみます。
      そういえば以前にフジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげです」に女優・吉本多香美ちゃん(『ウルトラマン』の黒部進さんの娘)が出演した時に「糠味噌」は乳酸菌なのでワインに合うと言っていたのを覚えてます。
      山田美妙先生の作品は読んだことはないのですが、言文一致体及び新体詩運動の先駆者として有名である一方、その文体はあまりにも新し過ぎるので比較的早くに飽きられしまい、晩年はほとんど本は売れなかったという話を読んだことがあります。

      話は変わりますが王子飛鳥山公園の紫陽花は現在咲き具合は如何なものでしょう?
      仕事の帰り途などでまた寄り道したいと思っています。

  2. 立花家蛇足 より:

    飛鳥山の紫陽花は見頃です。
    あと一週間くらいは大丈夫そうです。
    昨日寄合いで詳しい人間に確認しました。

    10月4,5日の飛鳥山区民祭りに強制参加が決まりました。

    • ヌ―ベルハンパ―グ より:

      立花家蛇足さん。
      ありがとうございます。
      是非見に行ってみます

      飛鳥山区民祭りとは初めて聞きますが神輿や山車とか出るのでしょうか?
      ブラバンのパレ―ドとかもあるのかな?

  3. 立花家蛇足 より:

    一応、こんなページがあります。

    第42回(令和7年度)ふるさと北区 区民まつり
    https://www.city.kita.lg.jp/living/community/1018228/1018632.html

    • ヌ―ベルハンパ―グ より:

      立花家蛇足さん
      ありがとうございます。
      結構盛り沢山のイベントですね。
      時間の都合ついたら覗いてみます。

      それから 教えていただいたかくやと赤ワインの組み合わせ美味しかったです。ありがとうございました

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