前回は表記の「酢豆腐」だけで長くなってしまいましたので今回は「ちりとてちん」を取り上げていきたいと思います。
あらすじ
横丁の旦那は寄合のためにお膳を準備していたが、来るはずの予定だった人がお見えにならず、お膳を余らしていた。
そこで世辞が得意な竹さんを招いて昼間から一杯やろうとする。

竹さんは、灘の生一本という酒を「幻の名酒」と褒め、鯛の刺身や、うなぎの蒲焼き、あらゆる料理を絶賛しながら楽しむ。

旦那もそんな竹さんの調子の良さに悪い気はしないが、隣に住む大工の六さんに対しては、料理をけなしてばかりの彼に一度仕返しをしたいと考えていた。

ちょうどその時、女中のお清が豆腐を腐らせてしまったという。
腐った豆腐に大量の唐辛子をふりかけ、まるで高級珍味のように仕立てる。これを「ちりとてちん」と呼ぶことにした。 呼び出された六さんは、旦那の差し出すお膳を食べる。「たいしたことのない味」と言いながらすべて平らげてしまう。

「こんなものじゃ満足してくれないか」と前置きした旦那が六さんに「ちりとてちん」を差し出し、台湾からのお土産だが、食べ方が分からないので教えて欲しいと聞いた。 六さんは「知ってる」と自慢げに語り、本物かどうか見極めてやると大口を叩く。 そして臭いに顔をしかめながらも、六さんは「本場の通は目で味わう」と言いながら腐った豆腐を口に運び、「涙が出るほど美味しい」と誤魔化そうとする。 旦那が「どんな味がした?と聞くと、六さん「ちょうど豆腐の腐ったような味がしました。」
最初に聴いたのは二代目・桂文朝師演でした。 「豆腐の腐った味がした。」というサゲに奇抜さを感じました。 元の噺の「酢豆腐」にも「これも拙者が食するから『酢豆腐』というものの君方が食べれば腐った豆腐だ。」 というサゲもあったそうです その後、二代目・三遊亭金翁師演、五代目・柳家小さん師演、関西の三代目・桂文我師演、現・桂南光師演を聴きました。五代目・小さん師演はTBSテレビ「落語特選会(落語研究会)」で視たのですが、「唐辛子」を混ぜた「酢豆腐」を無理やり飲み込む時の表情は凄さは忘れられませんね。客席は爆笑の渦でした。 落語の滑稽噺はもともと関西のネタだったのを三代目・柳家小さん師が関東に移したのが多いのですが、「ちりとてちん」は三代目・小さん師の弟子の初代・柳家小はん師が「酢豆腐」を改作した噺だそうです。 それが関西に移入されて初代・桂春團治師が得意にしたそうです。 以前にNHK連続テレビ小説で同題名のドラマが放映され、ヒロイン(貫地谷しほり)が関西の女性落語家だったこともあってか、「ちりとてちん」は元々関西のネタなのではと思われがちですが違うのです。 また、東西で演じられた経緯として、関東にも逆輸入されて二代目・文朝師たちによって演じられているという記載がネットにありましたが、それ以前に上記の五代目・小さん師、二代目・金翁師という演者もいたわけですよね。 五代目・小さん師以前に関東で演じている演者はいなかったのでしょうか。 「ちりとてちん」が一時期関東の聴き手にあまり知られてなかったかも知れないと思わせる逸話として下記の話を読んだことがあります。 自己の失敗談としてある演芸作家の先生が雑誌「落語界〜深川書房」に記していたのですが、その先生がパンフレットにコメントを記している「落語会」で五代目・小さん師が「ちりとてちん」を演じることになったそうです。 そしてそれに関してのコメントをその作家先生は記したのですが、どうも「ちりとてちん」という噺に対して「酢豆腐」同様、知ったかぶりをする人物が「腐った豆腐」を食べさせられる噺であるという認識しかなかったそうで、「この噺(ちりとてちん)には『通人』の若旦那が登場して・・・・・。」という旨のコメントを記してしまったそうで。 公演当日になり、先生も客席で聴いていたのですが、五代目・小さん師の噺が進むに連れ、段々冷汗が出てきたそうな。

「酢豆腐」とはストーリーの展開から違っていて「通人」の若旦那が出てこないばかりか、「腐った豆腐」かを食べさせられる人物が「大工の六さん」というまるで愛想ないキャラであったという。 「菊江仏壇」の菊江ではないが「消えとうございます。」の気分だったそうです。

こういう話を聞くと、やはり初代・小はん師以降五代目・小さん師が手がけるまで関東で「ちりとてちん」はほとんど演じられなかったのかなと思わざるを得ませんね。 明治・大正時代は「酢豆腐 」をもう一つ改作した「あくぬけ」が演じられていたようですね。こちらはやたら西洋かぶれで「英語」を使うイヤミな若旦那に「石鹸」を四角く切って煙草の銀紙に包んだものを新種の「洋菓子」と偽って食べさせる噺で四代目・橘家圓蔵師が演じていたそうです。

また同様の噺で「石鹸」を初代・三遊亭圓歌師が演じていました。 こちらはSPレコ−ドが発売されていたようで音源が残っています。また三代目・三遊亭金馬師は「石鹸行進曲」という題で演じていてこちらもレコ―ド化されていたようです。二代目・三遊亭円歌師も「しゃぼん」という題で演じていたそうですがこちらは音源は残っているのかな。 現在は演り手はいないようですね。
「腐った豆腐」に「ちりとてちん」というネ―ミングをするに当たって、隣家から聞こえてくる稽古中の「三味線」の音から思いつくのは関西の演出で、関東ではヒントなしで旦那が思いつく演出になってますね。

「酢豆腐」「ちりとてちん」ともに「腐った豆腐」をまずいのを堪えながら「美味い」と言いつつ食べる噺ですが、中国には「腐乳(フーユー)」という、カビ(麹)付けした豆腐を塩水で発酵させた食品があるという。 そのまま食べるだけでなく、調味料としても使われその匂いは強烈だそうですが、やみつきになりやすい味でもありますそうな。 沖縄料理の「豆腐よう」はこの「腐乳」が元だとか。
「豆腐」も腐らせようなんですな。
今日仕事の帰りに王子の飛鳥山公園に寄り道しました。



紫陽花の盛りでした。
これからより暑い時期を迎えます。
身体に気を付けましょう。
コメント
飛鳥山の紫陽花見頃だったようで何よりです。v(*-∀・*)ピース
『ちりとてちん』は大正12年の「文芸倶楽部」に柳家つばめの速記が残っております。