ネットのニュース速報を見ていたら、横浜の方では1月13日に「梅」の開花が見られたとのことです。 横浜より北にあたる私の周辺ではいつ「梅」の花が見られるかなと楽しみにしながら、寒さとも戦っています。

「梅」の開花の便りを聞き始めたこの睦月の25日の行事にちなんで今回はこの噺を取り上げたいと思います。
a初 天 神
父親「おっかぁ、ちょいと羽織出してくれ」 母親「なんだろねぇこの人は、新しく羽織を拵えたもんだから、用もないのに羽織を着ちゃ、表に出たがってさぁ。」
母「バカ言ってやがら。用もねぇのに表に出たがる奴があるかい。」

父「今日は天気もいいからよ、その羽織を羽織ってね、ちょいと天神様へお参りに行ってこようと思ってな。」 母「あら、天神様? そういえば今日は初天神じゃないか。じゃぁさ、金坊も一緒に連れてってやっておくれよ。」 父「 嫌だよ、あいつを連れて行くのは勘弁してくれ。」
母「勘弁してくれって、自分の子供じゃないかね。」
父「自分の子だから嫌なんだよぉ。あいつは表に出た途端、アレ買ってくれコレ買ってくれってよ。あいつと表を歩いた日にゃあ、俺ぁまんじりとも出来ねえ。だから早く羽織出してくれ。アイツが帰ってきちまう前に早く出かけるからよ。ほら早く……って、あら、帰ってきちゃったよ」
金坊「ただいまぁ。」
父「鼻が利くねコイツぁ。」

金「え、なぁに?」
父「いや、なんでもねぇ。それよりまだ日も高ぇじゃねえか、どっか行って遊んでこい。」
金「どっか行って遊んで帰ってきたんだよぉ」
父「もっとどっか行って遊んでこい」
金「だって友達みんなウチに帰っちゃったもん」
父「友達がウチに帰ぇったら、お前も帰って遊べ」
金「だから、帰ってきたんじゃないかぁ。……あら、お父っあんどうしたの、羽織なんか着ちゃってぇ、どこかへお出かけ?」
父「おう、今日はこれから怖いおじさんたちの集まる所へ行って、仕事の打ち合わせだ。」 金「あはは、嘘だよぉ。長い付き合いだものお父っあんの顔色見れば分かるよぉ。あっ、分かった! 天神様に行くんだろ、今日は初天神だもの。ねぇお父っあん、アタイも連れてとくれよ初天神。ねーったらー。」 父「勘のいいガキだねどうも……。あぁ、そうだよ、これから初天神に行くんだ。でもオメェは連れてかねえよ。どうせまたアレ買ってくれコレ買ってくれって言うに決まってんだから」 金「そんな事言わないでさぁ、アレ買ってくれコレ買ってくれって言わないからさぁ。」
父「ダメだ。ここで約束したって、一歩表に出りゃ必ず言うに決まってんだから」
金「ぜったい言わない、男と男の約束だ。だからさ、ねぇ、連れてっておくれよぉ」
父「聞いた風なこと言ってやがら。ダメだったらダメ!」
金「そんな事言わないでねぇぇ、連れてっておくれよぉ、ねぇ、お母っあんからも頼んでおくれよぉ」
母「ちょいとおまえさん、連れておやりよ。(小声で)嫌だよ置いてかれちゃ、家ん中でグズられちゃたまんないんだから。」
金「ねぇ、連れてっておくれよ」 母「連れてっておやりよ」 金「連れてっておくれよ」 母「連れてってやんなよ」
父「(二人がかりの攻撃に根負け)うるせえなぁ!分かった連れてくよ!いいか金坊、男と男の約束だ。表でアレ買ってくれコレ買ってくれと言ったら、ただじゃおかねえぞ」
母「そうだよ金坊、ちゃんとお父っあんの言うこと聞かないと、川ん中へ放っぽりこまれちまうよ」
父「ほら聞いたな、じゃぁ行くぞ。いいか、また駄々こねやがったら、帯引っつかんで遠慮なく川ん中放っぽりこんじまうからな。」 金「いいよ、アタイ泳げるもん」
父「泳げたってダメだ。川にはカッパがいて、お前ぇなんぞ頭からガブりと食われちまうんだから」
金「こないだ先生が言ってたよ。カッパってのは架空の生き物でホントはいないって。そんなのまだ信じてるなんてお父っあんはあどけないね」
父「ほんと可愛くないねお前は。ほら、ちゃんと引っ付いて歩け人が多いからよ。迷子になっちゃいけねえ」
金「お父っあん、人がいっぱいだね」

父「初天神だから当たり前ぇだ。お参り行く人と帰ぇる人の肩と肩がぶつかって、それでごった返ぇすのよ。」 金「へぇ、ねえお父っあん」
父「なんだ」
金「人もいっぱい出てるけど、お店もいっぱい出てるね。ねぇお父っあん。」

父「なんだ」
金「こんなに店が出てるのにさ、今日のアタイはアレ買ってくれコレ買ってくれって言わないでしょ」
父「おぉ、言われてみりゃぁ、今日はアレ買ってくれコレ買ってくれって言わねえな。」 金「ねぇお父っあん、アタイ今日はいい子だよね」
父「そうだな。そうやってオメェがいい子にしてりゃぁ、お父っあん何時だってオメエを連れて歩いてやるんだけどな」
金「ねぇ。いい子だよね。」 父「そうだないい子だな。」 金「だからさ、ご褒美に何か買っとくれよ。」
父「……始まりやがったな。今日はそういう事言わねぇって約束で来たんだろ?」
金「うー、そんな事言わないでさ、ねえおとっつあん、あそこにリンゴ売ってるからリンゴ買って。」父「リンゴあれすっぺえから毒だ。」 金「じゃあ、みかん買って?」 父「みかんもすっぺえから毒だ。」 金「じゃあ、柿買って?」 父「柿も渋いから毒だ。」 金「じゃあ、バナナ買って?」 父「バナナ長えから毒だ。」 金「長えってそんなこと言ってたらみんな毒になっちゃうじゃねえかよぉ!飴玉1つ買っておくれよ?ねっ、飴玉1つだけだからね?1つだけなんだから、飴玉!」 父「う~るさいなあ!!買わねえったら買わねえんだ今日は!」
金「飴玉1つ買ってくれたら後はあれ買ってくれこれ買ってくれって言わねえから!!おとっつあん!!飴玉たった1個!おとっつあん!飴玉たった1個!おとっつあん飴玉たった1個!!おとっつあん飴玉!!・・・・・・・。」父「分かったよ、うるせえなあ。じゃあ1つだけだぞ?大きな声出すんじゃねえの、大勢人がいるんだから・・・金坊!生憎だったなあ・・・せっかく飴玉買ってやろうと思ったらよぉ!飴屋が今日はいねえや!」 金「おとっつあんの後ろに出てら。」

父「この野郎!見当つけてから言うやつがあるか!ったく・・・・。随分大きい飴玉だなあ・・・ここに銭置いとくから!何?どれでも好きなの1つ取れ?おうそうか、ちょっと待て金坊!子供は手ぇ出すんじゃねえの!こどもの手でペタペタ飴触ったらばい菌ついちまうだろ?おとっつあんが選んでやっから!さあどれがいいかなぁ!あっ、この赤っかいの赤っかいの!!これいいな!口開けて!口開け!ん?何?女の子みたいでやだ?生意気なことを言ってんじゃねえ!そしたらおめえは男の子だろ?ちゅぱちゅぱっ(自分の指を舐める音)・・・じゃあ、この黄色いの黄色いの!え?口の中まっ黄っ黄になるって?黄色いんだから当たりめえよ!じゃあ・・ちゅぱちゅぱっ・・じゃあこれだこれ!ハッカハッカ!ん?これは何?すーすーして嫌だ?ああ・・そうか・・・ちゅぱちゅぱっ・・・じゃあこれ・・ああ半分かけてやがる・・・ちゅぱちゅぱっ・・・。」 飴屋「ちょっちょっと親方親方!何してるんですか!なんだかんだって方々舐め散らかされちゃあねえ!こっちは商売ですから!」 父「誰が舐め散らかしてるって?子供が嫌だってんだからしょうがねえだろぉ?おう金坊!おめえがぐずぐずしてやがるから怒られちまったじゃねえか!おじさんおっかねえんだぞ?ほら見ろ鼻の穴飴玉みたいにおっきいだろ?ほら口開け口開け!っとにもう!手ぇ煩わせやがってぇ!あっ歯ぁ当てんじゃねえ・・・歯当てるってと歯おっかえちまうから!歯当てんじゃねえの飴玉に!!歯おっ欠いちまうから!!」 金「ちゅぱっ・・・歯ぁおっかえるな・・歯おっか・・・えるなって・・さあ・・本当はそうじゃないんだよね?おとっつあんね?おとっつあんはさ?あたいが飴玉に歯当てて舐めると、すぐ飴なくなっちまうもんだから」

父「そらっ!上向いて舐めんじゃねえの!上向いて何か言うってと飴玉喉ん中に詰まっちまうだろ!上ばかり向いて歩くんじゃないの!ほら水っ溜まりが前にあるぞ!前を見ろっての!前に水っ溜まりっ!!(金坊をぶつ)。」 金「ううううあああああ~~~~~ん!!!!」 父「馬鹿野郎。男がちょっと背中どやされたぐらいで泣くやつがあるか。」 金「背中どやされて泣いてんじゃねえや。いきなり背中どやすからみろ・・・びっくりして飴玉落っことしちゃったじゃねえか・・」 父「飴玉落としたぁ?うっかり殴れねえよこりゃあ・・・ま、待ってろ待ってろ今おとっつあんが洗ってやっから・・・何だおめえどこにも落っこちてねえじゃねえか。」 金「お腹ん中に落っことしちゃった・・・」 父「喰っちまったんじゃねえか。」 金「おとっつあん団子買って!」 父「今飴買ったばっかりじゃねえか!」金「おとっつあんがどやすから喰っちまったじゃないか。責任取れ!現実から逃げるな!」 父「子供のくせに親に文句言ってんじゃねえの!買わねえよ!それにおめえ今日は男と男の約束って言ったろ? 買わねぇったら買わねえんだよ今日は!」 金「うぅーー……、団子ぉぉ! 買っとくれよぉおお! だんごぉぉぉぉぉぉ! だんごぉぉぉ!(周囲に聞こえるように大声で泣きわめく)」 父「大声で泣くんじゃねぇよ! みんなこっち見て指差して笑ってるじゃねえか、みっともねぇ。分かったよ買ってやる。おまえなんか連れてくるのは嫌だと言ったんだ……おぅ、団子屋。」
団子屋「へい、いらっしゃい」 父「何だってテメェ、こんなところに店出しやがったんだ」
団「いつも出ておりますよ。 父「いつも出てるんなら、今日くらい休みゃいいじゃねぇか」
団「そんな事を言われましても、手前も商売ですから」
父「まぁいいや、団子一本くれ。密にしますかアンコにしますか? アンコに決まってるじゃねえか、蜜はベタベタ汚れちまって家に帰ぇったらカカァに文句言われちまうだろ。コイツだけが言われんじゃないんだよ? 俺とコイツ並べて文句言われるんだよ。だからアンコだアンコ」
金「蜜が良いぃぃいい!」

父「……蜜にしてくれ。子供が食べるんだからね、蜜たっぷりオマケしてくれよ。おい、いくらオマケしてくれって言ったからってこんなにつけちゃあっちからこっちから垂れちゃって大変だ。(蜜を懸命になめる)・・・・・・・ほらよ。」
金「うあぁぁああん! 蜜全部舐めちゃったあぁぁぁ!」
父「あぁうるせえな。泣くんじゃねえよちょっと待ってろ。なぁ団子屋」
団「何でしょう?」
父「その壷には何が入ぇってるんだ? え、蜜? ホントかぁ? ちょっと蓋開けてみろ。あ、本当に蜜だちゃぷん。(壺の蜜に団子を付ける)」 団「あ、ちょいとお客さん困りますよ!」 金「わあ、こんなに蜜つけてあっちからこっちから垂れちゃって大変だ……ねぇおじちゃん、その壷には何が入ってるの?」
団「親子でやってやがる。」
父「さぁ、早ぇとこ天神様にお参りに行かねぇと怒られっちまう」
金「天神様は神様だもの、怒ったりしないよ。あ、お父っあん、凧が売ってるよ。ねぇ買っとくれよ」
父「団子買ってやったばかりじゃねえか。ダメだよ!」
金「うぁぁあああん! たこぉぉぉぉ! たこぉぉぉぉ!」
父「あぁもう分かった、分かったよ、こんちくしょう。おい!凧屋!こんなところに店出しやがって。小さい凧一つくれ。」
金「あの一番大きいのがいい」
父「ばか、あれは売りもんじゃなくて、凧屋の看板替わりなの。なぁ凧屋そうだろう?」 凧屋「いえ、売りますよ」 父「売らねえって言えよ!」 凧「そんな事言われても手前も商売ですから、飾ってるものは売りますよ。何です坊や?お父っあんが凧を買ってくれない? そんなことない買ってくれるよ、優しいお父っあんじゃないか?どうしてもダメって言われたらね、そこの水たまりに引っくり返ぇって手足バタバタして『凧買って!』・・・・。」
父「悪い凧屋だなあ。そんなこと教えんじゃねぇ! わかった買うよ!・・・・・・ほら、今度こそ天神様にお参りするぞ。何? 凧揚げしたい? 何言ってんだ、こんな人ごみで凧揚げるバカがあるか。え、そこの空き地でやってる? あ、ホントだ凧揚げしてやがら……。しょうがねえなぁ、今日はお前ぇに付き合ってやらぁ・・・・・・よし、じゃぁこの凧を持って後ろに下がれ、もっともっと後ろ…よし止まれ。あ、そこは枝が出てるから、もっとそっちによって、違うそっちだよそっち!」
金「お父っあん、こっち? それともこっち?」
父「そっちだそっち! そうそう、そこでいい。お、風が吹いて来やがった。いいか、一の、二の、三で離すんだぞ。ひのふのみ! それ離せ!そーれ、風に乗ってどんどん揚がっていくぞ。」 金「わぁ、お父っあん上手いねー」
父「へへ、お父っあんガキの時分は凧揚げで負けた事はなかったんだ。そーれ」
金「ねぇ、お父っあん、アタイにも持たせておくれよ」
父「おう、ちょっと待て。ちゃんと揚がったら金坊にも持たせてやるからな、おっと、そーれ」
金「ねぇ、お父っあん、アタイにも持たせてってばぁ!」
父「うるせぇな! こういうものは子供が持つものじゃねえんだ、あっち行ってろ!」
金「なんでえ。こんな事なら、お父っあんなんか連れて来なきゃ良かった。」

原話は原話は安永2年(1773年)に出版された『聞上手』の「凧」とされてます。中学校で最初に「古文」を習った時に教科書に載っていたのを覚えてます。 ただしこの話では最後に「おまえを連れてこなければよかった」というのは父親です。 共立女子短期大学教授武藤禎夫先生は、寛保2年(1742年)の『軽口若夷』第1巻所収「いかのぼり」をより古い初出として挙げています。 「初天神」という落語としては、関西の初代・松富久亭松竹師により作られ、笑福亭のお家芸の一つとして語り継がれてきたそうです。関東へは三代目・三遊亭圓馬師によって移植されました。五代目・古今亭志ん生師、三代目・三遊亭金馬師、六代目・三遊亭圓生師たちによって演じられていたようですが、音源があったら聞いてみたいです。 私は十代目・金原亭馬生師演を最初に聴きました。NHKテレビ「お好み演芸会」ででしたが、やたら理屈っぽくこまっちゃくれた子供と怒りながらも振り回されている父親のやり取りが面白かったですね。そして、その父親自身が凧揚げに夢中になってしまう可笑しみも最高でした。その後やはりテレビで十代目・柳家小三治師演、ラジオで二代目・三遊亭金翁演、ナマでは現・三遊亭遊三師、二代目・桂文朝師演を聴きました。 関西の「初天神」はTVで二代目・露の五郎兵衛師演、CDで五代目・笑福亭松鶴師演を聴きました。 関西では天満宮の場面で鳴り物を入れる演出もあるようです。
原話の江戸小噺が中学校の国語の教科書に載っていると記しましたが、今や「初天神」という落語自体も教科書に載っているのですね。
「初天神」とは、天神(菅原道真)を祀る天満宮に、正月の25日に参詣すること、あるいはその日に行われる縁日を指すそうです。 道真公は、その類まれなる才能を妬まれ、無実の罪で京都から遠い太宰府(現在の福岡県)へと左遷されてしまいました。その地で失意のうちに亡くなられた後、都では雷や疫病といった災いが続いたため、人々は道真公の祟りだと恐れ、その御霊を鎮めるために天神様としてお祀りするようになったのが天神信仰の始まりとされています。 実は、道真公にまつわる日は25日に集中しているそうですね。 誕生日が承和12年(845年)6月25日、大宰府へ左遷される詔が出された日が延喜元年(901年)1月25日、他界したのが延喜3年(903年)2月25日という。この不思議なご縁から、「25日」は道真公と縁の深い日とされ、毎月の縁日となったそうです。 そして、一年で最初の縁日である1月25日が「初天神」と呼ばれるようになったとのことです。
噺の中で「蜜」の「団子」が出てきますが、四代目・三遊亭圓彌師演を「古典落語(角川文庫)」で読んだ時、恥ずかしながら私は「蜂蜜」をからめた「団子」だと思ってました。 二代目・金翁師演では「あやめ団子」と言ってました。 よくよく聞いたら「みたらし団子」のことのようですね。

私は「醤油団子」という名で馴染んできたものですから。
でも実際、団子に蜂蜜ってあうのですかね。
蜂蜜も色々なタイプがありますし、何か試してみたい気がします。


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