ミラノ・コルティナ冬季大会でフィギュアのはりくりゅうペアがガッツリ逆転して金メダルに輝くという感動的ニュース、スピードスケート、ジャンプ、スノボー、フィギュアシングルなどでのメダルの獲得という数々の熱きニュース。
そんな寒くて熱い二月に因んで・・・・・というより、暑い時期の噺だと思いきや、実は雪の降る寒い晩の設定でしたという噺を取り上げたいと思います。
不動坊
良い年齢をして独り者の金貸しの吉兵衛のところへ、大家が縁談を持ち込んできた。

相手は若くはないが後家を世話するという。相手は同じ長屋の小間物屋・不動坊火焔の女房お滝で、最近亭主が旅先の北海道・函館で急死したので、骨にして送ってもらったが、先方の宿に千円の借金が残った。女一人で生活が立ちいかないから、どなたかいい人があったら縁づきたいと、大家に相談を持ちかけてきた、という。

ついては、不動坊の残した借金が1500円あるので、それを結納替わりに肩代わりしてくれるなら、という条件付き。 実は前々からお滝さんにぞっこんだった吉兵衛さん、二つ返事で結婚話しに飛びつき、本日大安だからさっそく、今夜祝言と決まった。
お滝さんは新しく亭主になった自分の事を何て呼んでくれるのだろうと吉兵衛は一人思い巡らせていた。「『お滝・あなた』が良いだろうな」、何遍も大きな声で言っていると隣から「うるさい」と、怒鳴られた。「では湯屋にでも行こうかな」と外に出たら、鉄瓶を提げていた。
湯屋に入ると、混んでいた。「みんなは汚れを落としに来ているんだが、自分は婚礼の晩だから・・・、婚礼の晩なんて奴は居ないだろうな」、湯が熱いのでかき回して「『あなたは湯上がりだと綺麗だわ』なんて言ってくれるだろうか」彼は一人世界に入っていて、周りの人が居るのもお構いなし。
見ず知らずの人に声かけて「おかみさんは居ますか」、「居るよ」、「くっつき合ですか、仲人があってですか」、「変な事聞くなぃ」、「公園のベンチに腰掛けている女の横に座って、図々しいから手を握って、無理矢理家に連れ込んで、かかぁにしたんだろうよ。とんでもねぇ奴だ」、「やな野郎だな。近所の山田さんと言う仲人が連れてきてくれたんだ」、「それはおめでとう。ところで、婚礼の前の晩はどうでした」、「良い気持ちのものだ。当然湯にも来たよ」、「私も・・・」。

「お滝さんが来たら何と挨拶しようかな。『騒々しい事で・・・』これでは火事場見舞いだよ。『遠方からはるばる・・・』これでは弔い(トムライ)のお礼だよ。難しいな。『お滝さん、お金のカタにこんなジジイの嫁に来たのは、いわばお金の仇と思うでしょうよ』、とポンと突っ込んでやるよ。お滝さんは黙ってうつむいているよ。キツい事を言うのでお滝さんは手ぬぐいを眼の所に持ってきてススリ泣いているよ。『先の亭主は優しかったが、だけどね、長屋には独り者が大勢いますよ。その中からあなたを選んだんじゃないですか。私の隣の池田屋さんは鹿の子の裏みたいな顔をしているし、下駄の歯入れ屋さんの吉さんは下駄みたいな細長い顔でしょ、あなたが一番イイので大家さんに決めてもらったのよ』、『ホントですか。私はジジイですから』、『私から見るとあなたは四十二・三にしか見えないわ。これからそんな事言うとつねるわよ』といってつねるね、『イタイ』。また、前に回ってくすぐるよ。コチョコチョコチョ『くすぐったい』。『イタイ。くすぐったい・・・・』」。ドブン!
「湯船に腰掛けていたが、ノロケを言ってたと思ったら、湯に落ちたよ。こんな奴は見た事が無い。金ちゃん、お前の顔から血が出ているよ」、
「そうだろうよ。軽石で顔をこすっちまったよ」。
湯舟の中でお滝との一人二役を演じて大騒ぎ。 「・・・『お滝さん、本当にあたしが好きで来たんですか?』、 『何ですねえ、今更水臭い』、『鍛治屋の鉄つぁんなんぞはどうです?』、『まァ、いやですよ。あんな色が真っ黒けで、顔の裏表がはっきりしない人は』、『チンドン屋の万さんは?』、『あんなカバみたいな人』、『じゃあ、漉返し(すきがえし)屋の徳さんは?』、『ちり紙に目鼻みたいな顔して』」、湯の中で、これを聞いた当の徳さんはカンカン。
長屋に帰ると、さっそく真っ黒けとカバを集め、飛んでもねえ野郎だから、今夜二人がいちゃついているところへ不動坊の幽霊を出し、脅かして明日の朝には夫婦別れをさしちまおうと、大変な相談がまとまった。

この三人、そろって前からお滝さんに気があったから、焼き餅も半分あってやる気十分。
幽霊役には年寄りで万年前座の噺家を雇い、真夜中に四人連れで利吉(この名前が元来の名前)の家にやってくる。 屋根に登って、天井の引き窓から幽霊をつり下ろす算段だが、万さんが、人魂用のアルコールを餡コロ餠と間違えて買ってきたので「こんな細い瓶に詰めるのが大変だった。」「餡コロで火が付くか」「火は付かないけどたんと喰うと胸が焼ける。」「落とし噺してる場合じゃねえ馬鹿野郎!」、「バカかどうか下の二人に聞いてみよう!」「しょうがない人魂は無しで。」と騒動の後、噺家が「四十九日も過ぎないのに、嫁入りとはうらめしい」と脅すと、

利吉少しも動ぜず、
「オレはてめえの借金を肩代わりしてやったんだ」と逆ねじを食わせたから、

幽霊は二の句が継げず髙砂やを謡ってすごすご退散。

結局、「手切れ金」を十円せしめただけで、計画はおジャン。怒った三人が屋根の上から揺さぶったので、幽霊は「それでもまだまだうらめし~。」
「おい、十円もらったのに、まだ宙に迷っているのか?」「いいえ、宙にぶら下がっております。 」
元は上方落語で二代目・林家菊丸師の作とされてます。 江戸落語としては三代目・柳家小さん師がが移入したとされてます。
私は最初に四代目・三遊亭圓彌師演をナマで聴きその後CDで九代目・桂文治師演、五代目・柳家小さん師演、十代目・柳家小三治師演を聴きました。テレビでは現・古今亭志ん輔師演を視ました。
関西では三代目・桂米朝師演、二代目・桂ざこば師演をラジオ・CDでテレビで三代目・笑福亭仁鶴師演、現・桂小文枝師演を視ました。
上記のあらすじほぼ九代目・桂文治師演に沿ってます。
関西では幽霊の役を演らされるのを軽田道斎という講釈師にしています。そして利吉が四人で分けるのに十分な金を出したところで謡をはじめる。上の三人は金をせしめたようだと「幽霊」を引っ張り上げようとすると吊っていた晒の布がブッツリ切れて「幽霊」は井戸端の近くにドスン。三人も後ろにゴロゴロドスンと落ちるもそのまま逃げて行ってしまう。利吉は「『幽霊』が『痛い』なんて言うかいな。」と落ちた井戸端のそばの「幽霊」に「何もんやお前?」「隣り裏に住んでおります軽田道斎といぅ講釈師で。」「講釈師が幽霊の真似して金取ったりするのんか?」「幽霊(遊芸)稼ぎ人でおます。」
とサゲてます。
「遊芸稼ぎ人」とは明治の頃に落語家や講釈師が興行許可を得るための鑑札で現代ではわかりづらいので三代目・米朝師、三代目・仁鶴師はそれをマクラで説明して噺に入ってました。
私が最初に四代目・圓彌師演を聴いたのは五月の東京落語会だったと記憶しており、内容から言っても暑い夏の噺だなと思っていたのですが、関西版を二代目・ざこば師演で聴いたら、なんと雪が深々と降る中であの「幽霊芝居」を行っているのですね。

わざわざ、雪の降る寒い晩にあんな「幽霊芝居」を行うところにあの四人のアホさ加減がうかがえる噺なのかも知れませんね。
噺の中で「人魂」を出すのに「アルコール」を用いる事を目論んでます。日本で「アルコール」が「医療用」として販売されたのは1886年(明治19年)のことだそうです。
それまで消毒用では「焼酎」が用いられたようですが。「百川」でも外科医の鴨池玄林先生が「怪我人」のために「焼酎」を用意するようにと言う件がありますね。
以前、テレビ朝日「必殺仕事人V風雲竜虎編」でかとうかずこさんが「焼酎」を土鍋で煮詰めて「アルホル」なるものを作っている場面があったのを覚えてます。その「アルコホル」なるものに火で燃やして「人魂」を作って敵を怯えさせるのに使ってました。alcohol(アルコホル)はオランダ語での綴り江戸時代においては一般的でなかったわけですね。「不動坊」のあの四人に「焼酎」を煮詰める悪知恵なんておそらくなかったでしょうけど、「アルコール」と「あんころ」と間違えるとはね(笑)
日本勢がメダルを2/21日現在で計24個獲得という熱きニュースをも耳にしながら、暑い時期の噺と思いきや雪の日の噺でしたというネタを今回は取り上げました。
近所のスーパーでこんな惣菜を売ってました。

「ミラノ風ピザ包み揚げ」として売ってました。見た目は「薄い」けピザの味が「濃厚」で。売っているのは今回の冬季オリンピックの期間中だけかな。

コメント